第5話
僕らが夜遅く歩いていると、優しい女性が話しかけてくれた。僕は泊まるところを探していたと話した。その女性は僕らの事を1晩泊めてくれると言ってくれた。
「ごめんね、食べ物はほとんどなくて、寝る場所ならあるから」
「いえ、純分です。ありがとうございます。」
僕はそう言って深く頭を下げた。その女性も街の人たちと同様で酷く痩せているようだった。
「この国の税金はどんどん上がってしまって、住むのがやっとで私なんて全然食べ物が食べられなくて」
女性は続けた
「王様はとても裕福な暮らしをされていると聞きます。どうして、私たちのことを見てくれないのでしょうか、」
まさか、僕らのことを分かっていたのか。僕は警戒した。だが、そんなつもりは無いことは彼女の表情を見ていれば分かった。それは悲しそうで、弱々しくて、僕らに襲いかかろうなんてそんな気は全く感じられなかった。
「王子様、どうか、王様にお願いしていただけませんか?少しでも、私たちの負担を軽くしてくれたらそんなに嬉しいことは無いのです。」
僕は悲しかった。国民はこんなに困っていたんだ。僕は何も知らなかったことが悔しくてしょうがなかった。僕がパンを食べたいといえば食べられるのは当たり前で、こんなに苦しんでいる人がいたなんて考えたこともなかったのだ。アンナは何も言わず僕の少し後ろで見ていた。僕は女性のお願いを受け入れることが出来なかった。僕はもう、お城には戻らないつもりだ。でも、本当にそれでいいのか?この国を変えられるのは僕だけかもしれないのに。
「泊めていただきありがとうございました」
「ありがとうございました」
僕らは深々と頭を下げた。
「いいえ。ごめんね、変なこと言って。お城の人にも色々事情があるのよね、」
それには何も答えずに、軽く頭を下げてから僕らは外に出た。外の世界は優しかった。でもそれと同時に、僕の育ったお城は冷たい場所のように思えてきたのだった。
その後僕らがお城を出る時に集めて持ってきた金は、国民が一生働かずに暮らせるほどの額だということを知った。なんだか胸の奥の方が苦しくて、しかたがなかった。
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