第17話

ソルたちの行く手にヒグマの獣人ジャンババンが立ちはだかる。

馬の騎士ウェインは物陰に隠れたまま、事の顛末を見守っている。


このウェイン領に大型肉食獣人が居ることは珍しいことだ。


殆ど初めて見るヒグマの獣人にソルは呆気にとられ、驚くばかりだった。

コーザも同様だ。

最初に反応を示したのはシアリーズだった。


シアリーズは剣に手をかけ、毛を逆立てながらヒグマの獣人に問いかけた。


「僕は今、猜疑心に苛まれている。罪なき者を斬りたくはない。もし、敵でないのなら怪しい真似などせず、立ち去って欲しい」


シアリーズがそう言うと、ジャンババンは静かにこう言った。

「・・・誤解の多い人生を送ってきました。そうやって私の意志を聞いてくれることは殆ど無かった。けれど、残念です」


不穏な空気が高まっていく。

その頃にはソルにもジャンババンの敵意が伝わってきて、ソルは戦いの構えを取っていた。


「・・・すみません。私はあなた方を皆殺しにしなければならない」


ジャンババンはそう言って襲い掛かって来た。

静かで丁寧な口調とは裏腹にその攻撃は激しかった。


殺意に溢れた、獰猛で、怒涛のような連続攻撃。

ソルがやっとの事でジャンババンの攻撃を避けると、その先にあった木が代わりに攻撃を受け、一撃でへし折れる。

それは丁度ソルの体と同じくらいの太さだった。

ソルはそれを見て攻撃を受けた時の自分の運命を悟って青ざめた。


「何なんだ!あんた!こんなことをしたら、いけないんだぞ!」


コーザが遠くからそう叫んだ。

メリーアンよりも離れた場所で、しかも木の陰からの声掛けだった。


ジャンババンはコーザの呼びかけを無視したが、コーザは呼びかけを続けた。

それは戦いに参加できない分、少しでもジャンババンの注意を引こうという試みだった。


「ここは村からそう離れていない!じきに村の自警団がやってくるぞ!そしたら、捕まって、檻の中だ!」


それはハッタリだった。

村の皆は火事の後始末で忙しいし、いくらコーザが大声を上げたとしても村まで届く距離ではない。

だが、このヒグマの獣人が土地勘があるとは思えないし、コーザはそれなりの効果があると踏んでいた。


そんなコーザの目論見を見透かしてか、ジャンババンが初めてコーザの言葉に反応を示した。


「小生は既に罪人なれば、その心配は無用です。それに・・・この仕事が済めば、罪が許され、放免されるのです」

「え・・・それって、どういうこと?」


コーザはそれを聞いて戸惑った。

(罪が許される?)

罪を裁いたり、許したりなんて、誰でも出来ることではない。

よほどの権力者だということだ。

・・・では、このヒグマにこの仕事を与えた奴って・・・?


そうこうしているとジャンババンは攻撃の手を止めた。

先ほど、コーザの問いかけに応えたのも、一旦、仕切りなおすついでだったようだ。


「なるほど、二人とも素早い。特にフェレットの方。このままでは攻撃が当たる気がしません」


(だったら、諦めて帰ってくれ)とソルは思った。


もちろん、そんな事にはならなかった。

ジャンババンは懐から懐中時計を取り出した。


それこそジャンババンが罪人として囚われる原因となった、国から奪った宝だった。

アーティファクトと呼ばれ、それぞれが魔法のような特異な力を持つアイテム。


ジャンババンがボタンのようなものを押すと、カチッという音が鳴り、その瞬間からジャンババンのスピードが跳ね上がった。

それまでだって避けるのがやっとだったジャンババンの攻撃・・・。


・・・加速したジャンババンの攻撃をソルは避けることが出来ず、まともにくらってしまった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る