第16話

馬の獣人、ウェイン。

彼は筋トレが趣味のまじめで平凡な騎士だ。

メリーアンの馬車を引いていたが、今は訳があって別行動をしている。

それは彼に下された特別な命令のためだった。


「ランストやリスターンは、まだ寝ているころだろうなあ・・・まったく、何で俺だけ・・・」


同じ馬の獣人で騎士の同僚の名を挙げ、文句を言った。

全く同じ境遇なのに、白羽の矢が立ったのはウェインだけだったのだ。

まったく嫌な役回りだ。

しかし、主人の命令には逆らえない。


その命令とは暗殺だった。

もうすぐターゲットがここを通る。

その時にターゲットを殺さなければならない。

騎士にあるまじき行為だ。まったく気が進まない。


・・・けれど、自分で手を下す必要が無いのは、僅かに救いだった。


ウェインの後ろには巨大な人影があった。

・・・ヒグマの獣人ジャンババン。

彼は囚人だ。

何とかって言う宝を奪うためにライオンを害した極悪人だ。

殺しの役目は彼のものだった。ウェインは彼を案内し、彼が確実に仕事を済ませるのを監視するのが役目だった。


だとしても、気が滅入る。

ジャンババンのような恐ろし気なやつと一緒に居るのも嫌だった。


できれば、ターゲットがあと少しでここを通るという主人の予想が外れてくれれば、これ以上、嫌や気持ちにならなくて済むのに・・・。


けれど、来た。来てしまった。

ターゲットの足音が近づいてくる。


「後でランストとリスターンに酒でもおごってもらおう。そうでないと割が合わない」


ウェインは愚痴を吐きながら、せめて早くこの嫌な仕事が終わってくれることを願った。

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