第15話
ソルとコーザは急いで自宅へ向かっていた。
すぐに村を出なくてはならないが、最低限の旅の準備はする必要がある。
シアリーズとメリーアンを村の入り口で待たせているので、時間は殆ど無い。
準備はコーザの方が先に済んだ。
ソルは例のパッチワークアーマーを着こむのに時間が掛かったからだ。
そして、母親に説明をして説得するのにも時間が掛かった。
そんなソルをコーザは家の前で待っていた。一人でシアリーズとメリーアンの所に向かう勇気がなかったからだ。
「相変わらず、お前の母ちゃん怖いな。外まで声が聞こえてたぞ」
「ああ・・・」
「でも、しっかりしていて俺は良いと思うぜ。俺の母ちゃんなんか・・・いや、なんでもない」
コーザの母親はコーザの父親が亡くなってから、すっかり気が抜けてしまったような状態になっていた。
きっと、コーザが旅立つことを伝えても気のない返事が返って来ただけだっただろう。
それを思うとソルの方まで暗くなってしまうのだった。
そんなソルの気落ちをコーザは察し、気分を変えようとした。
「そういえば、メリーアンってちょっと変だよな。変わってる。都会のお嬢様って皆ああなのかな?」
「変・・・?かな?」
メリーアンに一目惚れのソルは、その相手が変だなんて聞き捨てならない。
「ほら、昨日の夜、かくまってて一晩一緒に居ただろ?その時さ、なんか変だったんだよ。上手く言えないけど」
「・・・おまえ、ちょっと調子に乗るなよ?」
「ええ?なに?いきなり」
突然、不機嫌になったソルにコーザは戸惑う。
コーザがメリーアンと一晩一緒に居たというところに嫉妬を感じ、へそを曲げたのだが、コーザにはそんな理由はさっぱり分からない。
それに、一晩一緒に居たと言っても、そこにはコーザの母親も居て、嫉妬されるような状況ではない。
・・・しかし、生来の勘の良さとソルとの長い付き合いによって、コーザはソルの気持ちを察した。
「おまえさあ、本当にあの白イタチに惚れてんのな」
「そんな呼び方すんな!メリーアンさんと呼べ!・・・いや、そうじゃないか、メリーアン様?」
コーザは溜息をついた。
そして、こう考えた。
これは自分の勘だが、シアリーズは何故だかソルに興味を抱いている。
身分が高く、見込みのないメリーアンを追いかけるより、シアリーズに意識を向けた方が良いのではないかと。
問題はどうやって自分と違って鈍感なカピバラにそれを伝えるかだ。
なにせソルはシアリーズが女性であることすら気付いていないのだ。
それに、メリーアンは大事な相棒には相応しくない。
何故だか、強くそう思うのだ。
「あのなあ、ソル、シアリーズさんだってなあ・・・」
そう言いかけて、コーザは黙った。
ソルがいっそう不機嫌になったからだ。
ソルはシアリーズを男だと思っていて、何よりも未だに恋のライバルだからだ。
コーザは再び深いため息をついて、言いかけた言葉を胸にしまった。
自分がそれを伝えなきゃいけないわけじゃないし、これから一緒に山を下りる間に気付くチャンスがあるかもしれない。
もし、山を下りて護衛の任務が終わった後も気付かないようなら、その時に伝えればいいと思ったのだ。
「とにかく俺はお前の幸せを願ってるよ」
「なんだそれ急に。変だぞお前」
コーザはまた溜息をついた。
このカピバラの幼馴染は腕っぷしは強いが、それ以外はからっきしだ。
自分がついていてやらないといけないと強く思った。
しかし、この先の旅路には嫌な予感しかしない。
足には躊躇いがまとわりついたが、コーザはソルのためにそれを振り払った。
・・・しかし、コーザはその嫌な予感にもっと注意を払うべきだった。
もっと自分の勘を信じるべきだったのだ。
それを思い知るのはもう少し後の事だった。
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