第11話
その声の主はソルの母親だった。
しかも、怒り心頭という様子だ。
「情けないね!もう帰って来たの!?」
「・・・母ちゃん。そういうわけじゃ・・・」
「言い訳すんな!アタシは怒ってるんだ!」
「え・・・?な・・・」
「家にトリシャちゃん来て泣いてたよ!」
トリシャというのは、ソルの旅立ちのきっかけとなった幼馴染の女の子だ。
「てっきり、アンタはちゃんとお別れを言ったんだと思ってたけど、トリシャちゃん何も聞いてないって・・・!」
「あ・・・それは・・・」
「アタシが頭にきてんのは、トリシャちゃんを泣かせてまで村を出たお前があっさり帰ってきたことだよ!こうなったら、トリシャちゃんの事きちんとしないと、村から一歩も出さないからね!」
「は・・・はい」
ソルの母は凄い剣幕で言いたいことを言い切ると、嵐が去った後の晴天のような明るい口調でコーザに言った。
「そういうわけだから。ごめんね。コーザ。ちょっと待ってて。・・・あら、そちらはお客さん?ごめんなさいね。お見苦しいところを」
コーザは、いつもの事で慣れているので「ああ、いいよ。気にしないで」とあっけらかんと言ったが、残りの二人は圧倒され「い、いえ・・・」と返すのがやっとだった。
「ほら!ソル!ぼけっとしない!」
ソルは母親に耳を掴まれ、引きずられていく。
それを茫然と見送る三人だったが、重い沈黙をシアリーズが破った。
「・・・あ、それじゃあ、行こうか、メリーアン」
「そうですね。ああ、乳母に会うのは久しぶりだから楽しみだわ」
「じゃあ、俺も、これで・・・」
こうして、ソルは母親に連れられて行ってしまった後、三人も微妙な空気のまま別れた。
とりあえず家に戻って来たソル。
「あんな良い子をまた泣かせたりしたら、ただじゃおかないからね!」
母親はそう念を押して、仕事に行ってしまった。
ソルは暫くまごまごした後、母親の言いつけ通りトリシャに会いに行った。
(泣いていたって、どういうことだろ。なんで・・・)
(・・・!もしかして、俺の事を・・・!?)
(いやいや、まさか・・・でも、トリシャと一緒に居たイケメン。別に恋人と決まったわけじゃない)
(もしかしたら、いやいや、まさか、でも、もしかしたら・・・)
ソルは村を歩きまわったが、トリシャに会うことは出来なかった。
それは、ちょっとした行き違いだったのだが、運悪く、その日は会うことが出来ず夜になってしまった。
家に帰ると母親はまた凄い剣幕で怒り、小言を言った。
「今からでもいいから行ってきな!今ならきっと家に居るから!」
「いや・・・でも、夜だし。明日、朝イチで行くから」
「まったく!」
実はソルはトリシャに会うのを躊躇っていた。
僅かに生まれた望みがトリシャに会って消えてしまうのが怖かったのだ。
・・・実はネタ晴らしすると、その日に幼馴染に愛の告白をすればそれは成就し、この物語は終わった。
ハッピーエンドだ。
けれど、そうはならなかった。
現実はたいていそういうものだ。
とにかく、ソルがトリシャに会う機会は永遠に訪れなかった。
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