第7話

声の主は馬車の中のフェレットの獣人だった。

フェレットは馬車の中から出てきて言った。


「もしかして、お二人はこの近くの村の方ですか・・・?」


ソルが戸惑っているとコーザが「そうです!」と答えた。


それを聞いてフェレットの獣人はまず初めに安心したような表情を見せた後、すぐに気まずそうにした。

「すみません。助けてもらった上に、勘違いで怪我まで負わせてしまって・・・」


そのフェレットの獣人は申し訳なさそうに何度も謝った。

ソルはぶっきらぼうに「いいよ」とだけ答えた。


その時、馬車の中から、か細い声が聞こえた。

「あのう、出していただけるかしら」


それはオコジョの獣人の声だった。

その声を聞いてフェレットの獣人は「はっ!ごめんごめん。すぐに出してあげよう!」と馬車の上に駆け上がった。

そして、オコジョがフェレットの手助けを受けながら、馬車から救出された。


ソルはその一部始終を見ていたが、ああ、やはり、そのオコジョの娘は美しく、可憐で、魅力的だった。

その白毛は光をはなっているかのようだったし、その体は小さく儚げで守ってあげたいと思わずにはいられない。

ソルが馬車の中の彼女を見たのは一瞬だったが、その一瞬で恋に落ちてしまっていたのだ。


ソルが己の恋心を確かめると、それはすぐに痛みに変わった。

それが叶わぬ恋だと思ったからだ。

もちろん身分の違いもある。

しかし、その理由の大部分はフェレットの獣人の存在のためだった。


ソルはフェレットの獣人の鋭い刺突を思い出していた。

あれは恐らく大変な訓練によって得た技巧だ。

しかも、ソルが敵ではないという一瞬の判断で手を止めた。

そうでなければ、ソルの頭はくし刺しになっていただろう。

達人的な剣の腕前だ。とソルは思った。


それに馬車の中で敵を待ち受けるという作戦も理にかなっていた。

敵が大勢でも、狭い馬車の中で待ち受ければ数の不利はなく、むしろ、フェレットの獣人にとって有利だろう。

きっと、ソルたちが助けなくても危機を切り抜けたに違いない。


なにより、己の間違いを認め、身分の低いソルたちに頭を下げる謙虚さ・・・。


もうすでにソルは心の中で白旗を上げていた。


そんな考えで頭がいっぱいになり、ソルがぼーっとしているとコーザが声を掛けてきた。


「おい!ソル!おいって!いいよな?それで」


「え?なに?聞いてなかった。何が良いって?」


「村まで護衛してほしいってさ。いいよな?」


「あ、ああ。いいよ。それで」


ソルは今少し恋心を向ける相手と一緒に居られることを喜びつつ、フェレットの獣人の方をちらりと見た。

するとフェレットの獣人の方もソルの事をじっと見ていたので、視線が合うことになり、ソルは驚いて咄嗟に視線をずらした。


もし、ソルが視線を合わせたままで居られたのなら、きっとその意味を理解したかもしれない。


しかし、目を合わせたままで居られる勇気も、視線からその意思を読む理解力もソルは持ち合わせていなかった。

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