第4話

ソルに吹き飛ばされた盗賊は木に激突した後、ぐにゃりと地面に倒れた。

盗賊たちは倒れた仲間をしばらくじっと見つめていた。何が起きたのか理解するのに時間が必要だったのだ。

その間にソルは次のターゲットに攻撃を仕掛けた。

トゲのついた鉄球を盗賊たちのスネに力いっぱい打ち付けたのだ。


「ギャッッ!!」


打たれた盗賊は苦痛のあまりのたうち回った。

そのせいで別の盗賊にぶつかって、そいつも体勢を崩し、慌てて武器を落としてしまった。

ソルはその隙を見逃さず、武器を落とした盗賊のスネにも一撃をお見舞いした。


「ピギャッ!」


ソルは冷静だった。

村にも盗賊がやってきて、それを撃退したこともある。

だから、残る一人が同じような間抜けでないことをすぐに見抜いた。


「やるじゃないか」


最後の一人となった盗賊が冷淡にそう言った。

どうやらこの一団の頭目なのだろう。

頭目は静かにソルから距離を取った。

ソルの弱点が、その短いリーチだと見抜いているのだ。


ソルが突進する。

しかし、それを頭目はひらりと躱した。

もう同じ手は通用しないようだった。


「よう、話をしないか?」


頭目はそう切り出した。

ソルは沈黙を守っている。


「その馬車の中の話だ。あの中にはとんでもない宝が入っているんだぜ?」


ソルは尚も反応しない。

頭目は構わず続けた。


「あの馬車の紋章が見えるか?どこのモノか知らないが貴族の紋章に違いない。ってことは、あの中で震えてる女はその家の令嬢・・・」


ソルはそれを聞き逃しはしなかった。

「令嬢」というキーワードを。

そのキーワードは着火剤に火をつけるかのように一瞬で発火し、ソルの心の中を全て炎で埋め尽くした。


その間も頭目は雄弁にソルの説得を続けていた。

「・・・令嬢じゃなかったとしても、その関係者には間違いないだろうぜ。何せ着てるものが高級そうだし、身代金を要求すれば・・・」


そこから先の言葉は口から出ることはなかった。

言葉の代わりに別なモノが出ることになったのだ。具体的には胃液とか血反吐だ。

なにせ、ソルの体当たりをどてっぱらに思い切り食らうことになったせいだった。


頭目は距離を取っていたので安心しきっていたが、最初の一撃がソルの全力という訳ではなかったのだ。

「令嬢」という言葉に発奮したソルの突進は、いつもの三倍ほどの速度と威力を持っていた。


頭目は最初に吹っ飛ばされた盗賊の五倍の距離を飛ぶことになった。

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