第2話

物語は大抵、不幸から始まる。

トラックにはねられたり、追放されたり、悪女に転生したり・・・。

カピバラの獣人・ソルの場合は幼馴染にフラれたことが始まりだった。


フラれたと言っても、幼馴染はソルが自分の事を好きだなんて知らなかったし、嫌いだと伝えたわけでもない。

幼馴染が別の男と歩いているのを、ソルが目撃し、勝手に絶望しただけだった。


そんなことは、よくあることかもしれないし、大したことじゃないかもしれない。

けれど、ソルにとっては世界の全てに裏切られたようなショックな出来事だった。


「街だ。街に行こう。もうこの村には居られない」


ソルは失恋の勢いで村を出る決心をしたのだ。


「そうだ。おめえは村一番の力持ちだかんな。街に行けば、きっと、よりみどりだろうさ」

そう言ってソルを慰めつつ、おだてているのは別の幼馴染、アライグマのコーザだった。

コーザは村でくすぶっているのが嫌で街に行きたいと思っていながらも、一人では勇気が出ず、ソルの決心は都合が良かったのだ。


「それにしても、そんなもん、よく持ってたな」

コーザがソルをじろじろと見る。

コーザが珍しそうに見ているのはソルの鎧だった。

分厚くて、いかにも重そうな鎧だ。


「ああ、これな。ほら、おれの父ちゃんの従妹の息子の友達が鍛冶屋だったから」

「作ってもらったのか!?」

「あー、いや・・・」

実際は落ちていた穴だらけの鎧を、その鍛冶屋で直したものだった。

しかも、やったのはソル本人で道具を貸してもらって、少しやり方を教えてもらった程度だった。

だから、その鎧はパッチワークのように鉄板がツギハギされている不格好なものだった。


「・・・しかし、重そうだな」

コーザが心配そうに言う。

ツギハギの分、重さが増しているので、より重そうに見えるのだ。

「重さはパワーだ」

ソルは自信たっぷりにそう言った。

それは本心だった。


「それだけじゃないんだぜ」

ソルはそう言って得意げに荷物の中から何かを取り出した。


それは兜だった。

しかも、サイの角を模した突起がついていた。

その兜も鍛冶屋でソルが自分で作り上げたものだった。


「そして・・・これ!」

ソルは兜をかぶって、更にトゲトゲの鉄球がついた武器を構えた。

もちろん武器もお手製なので、ひどく不格好だ。

それでもコーザは「フルアーマーだな!」と自分の事のように喜んで笑った。


そんな話をしながら、二人は暫く歩き、ソルが重さに耐えかねて兜を脱ごうかと思った時だった。

道の前方に何者かの姿が目に入った。


それはいかにも盗賊かのようなヤマイヌの獣人だった。

しかも、一人だけではない。

全部で4人の集団だった。


しかも、その先には恐らく盗賊の襲撃を受けたのであろう馬車が倒れていた。


ソルは、その馬車の中に怯えて助けを求める美しい女性が待っているように感じた。

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