惚れ薬
Aは優秀な科学者だった。
しかし、誰しも欠点が存在するように、Aにも女にモテないという欠点があったのだ。
「金もある、頭もいい、どうして私はモテないんだ」
Aはその悩みにずいぶんと悩まされていた。しかし、Aにはとうにわかっていたのだ。彼の顔は、パッとしなかった。それだけは、彼も認めていたのだ。
巷にはびこるカップルは、とにかく美男美女だらけだった。そして、そんな彼らに自分が到底勝っているとは、自信家のAにも思えなかった。
ある日、Aはある薬を開発した。惚れ薬だ。
「この薬さえ飲ませれば、どんな奴にでも惚れる。これを女に飲ませれば、私でもモテるぞ」
そう言ってAはいささか不気味な笑みを浮かべた。
Aは、さっそく薬をもって、近くのレストランへと助手のCを誘った。彼女は、Aが惚れ薬を完成させていることを知りもしていなかった。
「どうしたんです、Aさんが急にこんなとこでランチしようだなんて」
「なに、日頃のねぎらいの気持ちだよ。今日は私のおごりだ」
Aはそう言って笑顔を浮かべた。もちろん、ねぎらいというのは嘘だ。当然、彼は薬の効果を確かめようとしたのだ。
Cが席を立った隙に、Aは彼女の水に惚れ薬を入れた。薬はすっかり水に溶け込んで、目立たなくなった。
「それにしても、今日は暑いね」
Aはそう言って水を飲む。
「確かに、暑いですね今日は」
そう言うと、今度はCも水を飲んだ。Cが行動をよくまねる人間だと、Aは気づいていた。
Cが水を飲むと、目がうつろうつろとしだした。
「あれ、なんだか今日のAさんは魅力的に感じます」
Cはそう言ってまじまじとAを見つめてきたのだ。
成功だ、薬の効果が効いてきてるのだ。Aは嬉しそうにCのことを見つめ返した。
「そうかい、それは嬉しいな。私も今日の君はずいぶんと綺麗に感じるよ」
そう言ってAはCを見つめた。
「Aさん、なんだか私……」
Cがうっとりとした目線で、Aの手を取る。よし、これはいけるぞ、Aは心躍らせ、彼女の目を見つめる。
そんな時だ。
「あれ、Aじゃないか、久しぶりだな。元気にやってたか」
突然Aに声をかけたのは、旧友のBであった。
「おや、久しぶりじゃないか」
Aは返事をする。しかし、内心では邪魔が入ったとAはいらついていた。
「まあ、Aさんのお友達ですか」
そう言って、CはBの方を向いた。
「なんとまあ、なんて素敵な人。私と付き合ってください」
そう言って、CはBに抱きついてきた。
やれやれ、薬は失敗作か。Aは渋り顔で落胆の息を漏らす。
そう、誰にでも惚れてしまう薬では、Aには使いこなせないのだ。それ以上の人間に会えば、薬を飲んだものはそっちに好意を向けるのだから。
Aは、そのまま目の前でまんざらでもない笑みを浮かべる、顔の整ったBを眺めた。
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