人格査定所

 ある日、村の片隅にある店が建った。

 簡易な平屋に、大きな看板で人格査定所と記されていた。

 村の人間は変な店が出来たと騒ぎ立てた。

 その店が建って少しした頃、自分がだめだと悩む少年がふとその店を訪ねた。

「僕は駄目な人間なのかな」

「それは、人格査定してみないとわからないわ」

 店主の女性はそう言って、少年にヘルメットをかぶせた。

「あなたの人格は良好よ。価値にして三百万。この年にしてはすごい額ね」

 女性はそう言って笑った。


 少年はそのことを嬉しそうに村の人間に話した。村の人間は大変そのことに驚いた。

 少年は悲観的な性格で、そんなことを言う人間ではなかった。そして、少年が良い人間だと村の誰しもがわかっていたからだ。

 村の人間は、そのことをきっかけにして、人格査定所にこぞって向かっていった。誰しも、自分の人格がどれほどのものなのかが気になったのだ。

「あなたは五百万だわ」

「あなたは低いわ。五千円ね」

 女性は次々に村の人間の人格を査定していった。

 さらに、査定額の低さに嘆いた人間には、どうやったらより良い人格になりえるのかも教えてくれた。

 そのうち、人格の査定額が高かった人間が、買い取ってくれと言ってきた。

 だが、女性はその人間に対して、首を横に振った。

「人格は査定額分売ることはできないわ。人格がゼロになったら死んじゃうもの。人格はプラス分しか売れないわ。あなたの額じゃあ、三万もいかないわね」

 女性のこの言葉以降、買い取ってくれと言う人間は現れなかった。大した額が受け取れそうな人間がいなかったからだ。


 ある日、成長した少年が、また店に来た。

「僕の人格は今いくらくらいになってるかな」

 少年の言葉に女性はヘルメットをかぶせた。

「すごいわ。五千万。こんなに良い人格の人間、村で見なかったわ」

 女性は驚きながらそう言った。すると、少年は女性に問いかけた。

「そんなに高いなら、買い取ってくれないか」

「どうして?」

 女性は不思議に思い問いかけた。

「お金がないんだ。村の人たちに少しずつ借りてたけど、これ以上迷惑かけられない。僕の人格が高いなら、その分を買い取ってくれ」

「いいの? 人格を買い取ってしまったら、あなたの人格は良くも悪くもない、平凡な人格になってしまうわよ」

 女性の忠告に、少年は真剣な顔で答えた。

「大丈夫だよ、構わない」




 少年は人格を買い取ってもらい、かなりの額のお金を得た。そのお金で、少年はお金を借りていた村の人々に借金を返済していった。

 それでも少年には、多くのお金があったので、働かないでのんびりと暮らしていった。

 そして、そのお金が底をつき、少年は働こうと思った。

「何年ものんびりしていた人間を、雇う気にはなれんな」

「何の経験もないのに、雇うのはちょっとね」

 少年は、どこに出向いても、雇ってはもらえなかった。

 そしてまたお金に困った少年は、村の人間にお金を借りようとした。

「ふざけるな、返せもしない奴に誰が貸すか」

「お前に貸す金はない」

 少年に金を貸そうとする人間は、誰一人としていなかった。

 人格を売る前までは、少年は村の人格者としてみんなに慕われていた。けれども、人格を売ってしまった少年は、もう村の人々にとってはただの平凡な人間となっていた。むしろ、ぐーたらの情けない人間とさえも思われていた。

 人格の変わった少年に、村の人々は何とも思わなくなっていた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る