真夜中の愚痴
仁
第1話
日曜日、二十三時。
ただの週末の夜のことであった。
あと一時間で日付が変わる頃、綾は布団にくるまり、スマートフォンを片手にただ空を見つめていた。
何もする気がない。ただただ眠くなくて、でもほかにしたいことがなくて。
すべきことはあった。明日のためにご飯を炊いたり平日の間に溜まった洗濯物を干したり。気になっているドラマを見るのもいいだろう。
そのすべてを放棄して一日中布団の中にいた。
なぜこうなったのだろうと綾は考えていた。前日は仕事終わりに同僚と飲みあかし、今朝から二日酔いだったからだろうか。それともスマホのゲームをダウンロードしてしまったからか。はたまた季節外れの寒波で寒かったからか。
全部いいわけなのはわかっていた。ただ、なんとなく何もしなかっただけであった。
明日のことを思う。週初めのミーティングだ。朝から資料を作成して会場の机の移動をしなければいけない。面倒くさい上司の世間話を聞かされて、取引先に連絡もしなければ。
どれもこれも、面倒くさい。
スマホの画面の時計は容赦なく進んでいる。
今寝てしまったら明日の自分は恨み言をいうだろうと綾は思った。
すまない、無理なんだ。
心からの謝罪でもきっと届かない。
ぴこん。
なんだろうと綾はスマホの画面を見た。
一件の通知があります。
綾はどうにか指を動かして通知を見る。
相手は幼いころの友達だった。仲が良くて毎日一緒に遊んで、そして社会人になって疎遠になってしまった普通の友達。
映し出されたのは見たことのない子供の写真だ。ちょっとその友達に顔が似ている。
そのあとすぐにコメントが入る。
『最近どう?』
綾は、電源を切った。
顔を枕に埋めて少しうなる。風の噂で結婚していたことは聞いていた。多分あれはそいつとこさえたガキであろう。
今じゃなくてもいいじゃん、と誰にも届かない声を出す。
子供の写真が脳裏に焼き付いて離れない。楽しそうな何も考えていない顔。
子供のころは何でも楽しくて毎日が幸せだった。何をやっても飽きなくて、友達もいて。
今は、一人。
涙も出ない。
悲しみよりも虚しさだけが綾の心中にあった。
もう、真夜中。日付も変わった。シンデレラですら普通の村娘に戻る時間だ。
綾は、そのまま眠りに落ちた。
何も変わらない、ただの週末の夜であった。
真夜中の愚痴 仁 @jin511
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