第4話「個性のディープフェイク」
「AI技術による深層学習は、学習元となるデータが多ければ多いほどその威力を発揮します。たとえば2014年に
「まさか……昭和天皇の人格をコピーすることができる、ということか」
「人格、というのは少し違いますね。そんな曖昧なものを読み取るのは不可能だ。コピーするのはあくまで個性――キャラクターです。人間は演技する生き物。人前に出る。カメラの前に出る。自分の言葉を本に残す。そういったときには、周囲からかくあるべし、と期待される人格=個性を演じることになる。個性は人格よりもずっと単純で、読みやすい……」
「もしあのとき僕がテープを停止しなければ……」
「昭和天皇自身のお言葉が聞けたでしょうね。きひひひひひ」
そんなことを認めていいのか。そんなものが昭和天皇本人のお言葉であるはずがない。だが。人間は常に演技をする生き物――外部に見せるのは、本人の内面よりもずっと単純であり、ずっと定型的な、他人にこう見せたいであろうキャラクターでしかない――それは長年ドキュメンタリーを製作していた田原にとっては、容易に飲み込めてしまう理屈だった。
「
ああ、ご安心を。二次創作にも最低限のルールはあります。こと存命中の実在の人物に関しては『個性のディープフェイク』は認められていません」
田原は『天皇論』のテープに登場していた面々を思い出した。そして気づいた。壇上の論客はみな田原が知っている人物であり――いずれもすでに亡くなってる者たちであることに。
昭和天皇もすでに亡くなられている……いや。
「待て! ちょっと待て。それはおかしい。あのテープには僕も映っていた。あんな番組を撮った覚えはないのに」
「おやおや。寄る年波ですかな? 物覚えが悪くなったんでしょうか」
「違う! あの映像の僕はまちがいなくフェイクだ!」
じゃあ。これは。どういうことなんだ?
急に足元が消失したような感覚を覚えた。『個性のディープフェイク』は存命中の人物には認められていないという。すでに僕は死んでいるとでもいうのか。
「なにごとにも例外はあるものです」
阿蘭は、
「存命中の人物の中で唯一『個性のディープフェイク』――既存の史料を元に構築した二次創作が認められている人物がいます。あなたです、田原総一朗さん。あなたは2012年に刊行されたあなたの自伝――『
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