第3話「阿蘭 住吉」
「こんなテープは存在しないっ!」
田原は
「僕が新宿のコマ劇でおこなった討論会、『のんすとっぷ24時間』が
昭和天皇が体調を崩された1988年。これは昭和天皇・
「この機会を
「ええ、知ってますよ。カクヨムのインタビューで読みましたから」
「なに?」
「天皇論や差別問題を『朝生』で扱ったことに関する記述は、カクヨムに連載されていた田原さんの第3回インタビューで触れられています。もっともプロデューサーから難色を示されたことや、当時の田原さんが編み出した機転――事前説明ではオリンピックの討論ということにして、生放送中に議題を天皇論に移すことで放送を強行したくだりは未入力でしたが」
「お前は……誰だ?」
「名前ですか?
あらんすみよし。アラン・スミシー。それはアメリカの映画業界で、監督無記名のまま映画が上映される際につけられる
「結論から言えば田原さんの意見は正しい。このテープはまったくの作り物。実在しない番組です。ディープフェイク、という言葉は聞いたことがありますか」
「な、なんだと? もう一度言ってくれ」
「ディープフェイクです。AI技術による深層学習――ディープラーニングの応用の一つ。既存の映像に
「あのテープに映っていた論客や聴衆、それに昭和天皇は……すべて合成でつくられた映像ということか」
「そういうことです。私なりに田原さんへの尊敬の念を表現させていただきました」
きひひひひひ、と
「私は映像作家としての田原さんを天才だと思っています。人間は演技をする生き物だ、カメラの前では被写体はかならず演技をしてしまう――そういった習性を利用して、あえて被写体が演技をする場を整えて、カメラの前で対象を好きに躍らせて、それを撮影する。そういった人間のナマを表現するのが田原ドキュメンタリーです! それに対して
「ふざけるな! それがあの、人を馬鹿にしたテープとどう繋がるんだ!」
「やらせですよ。ドキュメンタリーにかぎらず、田原さんの番組の最大の武器はそこにある。テレビが持ついかがわしさ、ツクリモノ感、茶番をあえて隠さずに前面に押し出す」
「僕は土俵は用意する。自分がこう思われたい、と感じている自分を演じるように場を整える。そのためにカメラを向ける。たしかにやらせかもしれない。だがお前のつくった映像は違うだろう! 映像に映っているのは本人に見えても、誰か別の人間が書いた脚本の通りに演じて、台詞を話す。それこそ
「脚本ですって? きひひ」
「なにがおかしい。なんで笑うんだ、言ってみろ!」
「あの映像に脚本なんてありませんよ。AI技術によって偽造できるのは映像だけではありません。すでに『個性のディープフェイク』さえも行われているのですから」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます