ハンカチと鉄の味⑨

 土曜日は見事な青空が広がった。

 まるで僕らの気分を少しでも明るくさせようとしているような空の青さだった。

 部活を終えた僕は紀夫に誘われて、街に遊びに行った。途中で岡野も合流して、三人で声が枯れるまでカラオケで歌を歌った。

 雅世の葬儀は家族葬だったため、僕らは参列することができなかった。一般葬でも僕は門前払いされたかもしれない。彼女にお別れを告げることさえ許されなかった僕の気持ちを汲み取って、紀夫は気晴らしに遊びに連れ出してくれたのだろう。

 カラオケを終えた僕らは、自転車で北大通りを進む。幣舞橋を超えて、紀夫と岡野は緑ヶ丘方面の道に進むだろうから、僕は橋を渡り終えたところで二人と別れた。

 僕はすぐに帰らず、出世坂を自転車を押して上り、幣舞公園に入る。

 雅世と何度も訪れた公園だ。

 柵の近くに自転車を立てかけ、僕は柵に腕を置いて橋を眺めた。河の上空を飛ぶウミネコの鳴き声が悲しげに聞こえた。

 一時間ほど経過しただろうか、空が徐々に茜色に変わり始めた。

 今日は夕陽を見てから帰りたかった。本当は雅世と二人で夕陽を見たかった。

 ――約束を果たせなくて、ごめん。

 もう一生約束を果たせないと思うと、涙が溢れた。

 ポタポタととめどなく、木の葉から滴り落ちる雫のように柵を濡らした。涙が止まらなくて、幣舞橋の向こうの遠くに見える夕陽がぼやけて見えた。

 ――雅世、ごめんね。

 涙を拭いたくて、征服のポケットに手を入れた。ハンカチを引っ張りだし、目に当てる。そのハンカチは僕のではなく、和田さんのハンカチだった。

 涙を拭いて、僕は夕陽に向かって言う。

「ごめんね」

 かすれた声だった。

 僕の想いを聞き届けたように、夕陽は水平線に静かに姿を消した。

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