双子星に恋するように⑧
卒業式で先輩方を送り出し、僕らは進路ガイダンスやバスケットボール大会など、精力的にイベントをこなしていた。進路ガイダンスでは、僕は希望通り理系クラスに進めることを告げられたけど、希望が叶わず落ち込むクラスメイトを何人か目にした。
文系クラスでも理系科目は勉強できるし、理系大学の進路が絶たれたわけじゃないから、落ち込まずに前を向こうと声をかけたかった。
そうこうしているうちに修了式と離任式を向かえた。離任式は定年を向かえた先生を送り出す式だった。今回離任式に出た先生は、知らない先生だった。きっと二年か三年生を受け持っていた先生なのだろう。
修了式を終え教室に戻ってきた僕らは、どこかそわそわしていた。二年になって、同じクラスになれるとは限らないから、別れを惜しむ恋人のように抱き合っている女子生徒もいた。
早々に帰宅する生徒もいれば、教室に残って友達を話す生徒など各々思うままに、最後の一年生の時間を過ごしていた。雅世はどうしてるのだろうと思って、教室を見回すと彼女は伊藤さんと話していた。伊藤さんも理系クラスに進むと紀夫から聞いたけど、理系クラスは二クラスあるから同じクラスになるとも限らない。春休みの約束をしたかったから、伊藤さんと話しを終えるのを待つことにした。
ふと窓際に目を向けた時だった。鞄に荷物をまとめる和田さんの姿が目に入った。
僕は近づいて言う。
「今日で最後だね」
和田さんは文系クラスに進むことを知っていたから、僕はそう言った。学食から教室に戻ると、カーテンをすり抜ける淡い光を浴びながら読書する和田さんの姿を見れなくなると思うと、ちょっと寂しかった。それに、彼女には今話しかけておかないといけない気がした。
僕を認識した彼女は、ほほ笑んで言う。
「そうだね。でも、一年生が最後であって、高校生活はあと二年も続くんだし、ちょっとみんな大げさかな」
「そうかもしれないね」
七月の学校祭で和田さんを振り回したことがきっかけで、僕は和田さんとたまに会話するようになった。話題はいつも決まって読んでいる本についてだった。彼女は吉本ばななの本を好んで読んでいると教えてくれた。
僕は続ける。
「和田さんは寂しくないの?」
「なくはないよ。一年間同じクラスで生活して、仲良くなった友達とクラスが別々になることは少し寂しいけど、同じ学校だし、雅世ちゃんや紗希ちゃんとは部活で会えるからネガティブには考えていないよ。三代君はやっぱり寂しい?」
「寂しいことよりも、少し不安かな」
「勉強面が?」
僕は首を横に振る。
「新しいクラスに馴染めるかな、って不安に思うんだ」
「大丈夫だよ」
「そうかな」
「三代君てさ、根がネガティブだよね。普段高木君たちや皆と明るく接しているから最初はそうは思わなかったけど、だいぶ分かってきた」
苦笑いしながら僕は言う。
「否定はしないよ」
「でもね、根がネガティブでも三代君はそれを覆えるポジティブさを持っているはずだよ。大丈夫、そんなに不安の思わないでさ二年生を楽しむ気持ちを持とうよ」
彼女の言葉に胸が軽くなった。
和田さんは物静かに見られがちだけど、話せば自分の意見をしっかりと言うし、何よりも素晴らしい洞察力を持っている。だから、彼女と話す度に僕は新たな気づきをもらっている気がする。
「ありがと。そうだね、二年生を楽しもうと思うのは大事だね」
「そうだよ」
「帰ろうとしている時にごめんね」
「なんも、急いでたわけじゃないし」
「図書館で会ったら、また本のこと教えてね」
「うん、分かった。じゃあ、私帰るね」
「気をつけて」
手を振ってから教室の出口に向かう彼女の背中は、まだ到来の見えない春のような温かさを纏っているような雰囲気だった。
和田さんから言われたことを噛みしめて、僕はほほ笑む。それから、伊藤さんとの話を終えた雅世の元に向かった。
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