ポラリスの夢と小さな幸せ⑦

 後期の中間考査が終わり、教室は一気に冬休みを待ち望む空気に満たされる。

 僕らの高校は二学年から文系と理系クラスに分かれる。理系クラスは文系クラスに

比べて数が少なく、二クラスしか設けられない。だから、理系クラスに進みたい生徒は中間と期末考査で上位の成績をとる必要があったし、校内でも理系クラスは優秀な生徒が集まると羽球部の先輩も言っていた。

 僕と紀夫は理系クラスを希望していたし、担任の菅野先生も僕らの成績であれば、問題なく理系クラスに進めるだろうと言っていた。この時点で、僕は卒業するまで紀夫とは同じクラスになる予感がしていた。

 中間考査が終わったから、僕は小山さんに街に行こうと誘った。まなぼっとのアートギャラリーの内容が一部変わることを中間考査前に見かけたから、中間考査が終わったら彼女を連れて行きたいと思っていた。

 小山さんと待ち合わせをしていた日の空はうす曇で、どこか寂しげな空に見えた。冬の香りを感じる肌寒い風が街を通り抜け、ちらほら雪虫が舞っていた。

 僕は一人、まなぼっと近くのバス停で彼女を待つ。普段街に出かける時は、たいてい彼女と同じバスになるのだけど、僕が乗ったバスには彼女は乗っていなかった。きっと準備に手間取ってバスの時間に間に合わなかったのかもしれない。

 バス停の近くに立ちながら、僕は手の甲を摩る。そろそろ手袋が必要な時期かもなと思いながら彼女を待った。

 桜ヶ岡五丁目が経路に入っているバスが見えた。小山さんが乗っていると思って、僕は停車したバスの中に視線を向ける。だけど、このバスにも小山さんの姿はなかった。

 風に当たりながら三本ほどバスを見送った。腕時計に目を向けると、約束した待ち合わせ時間から一時間以上が経過していた。

 胸の中がもやっとする。

 ――何かあったのかな?

 彼女はこれまで約束の時間に少し遅れることはあっても、約束をすっぽかすことは一度もなかった。だから、何かトラブルがあったのかもしれない。事故とかに巻き込まれていなければいいけど、と気が気でなくなる。

 結局二時間待っても彼女は現れることはなかった。

 僕は木枯らしに背中を押されるようにバス停を離れた。

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