ポラリスの夢と小さな幸せ⑥

 高校生になった彼女に再会しても、僕の日常は変わらなかった。平日は授業と部活に明け暮れ、部活がない日曜日は小山さんと会う。今月は後期の中間考査があるから、小山さんと会っても遊んだりはせず、一緒に図書館で勉強をした。

 以前と違ったのは、小山さんと一緒にテスト勉強している所に、紀夫と伊藤さんが押しかけてきて四人で勉強をすることになったくらいだ。

 僕らのクラスは上位の大半を女子生徒が占めている。トップ一○に入っているのは、僕と紀夫くらいだ。残念ながら伊藤さんはトップ一○位に入ったことがなく、今回の中間考査は随分と息巻いている様子だった。その証拠に、紀夫に随分と分からない問題を質問していて、紀夫も細やかに解法をレクチャーしていた。

 図書館での勉強が終わると、僕らは以前小山さんに連れてってもらった古本屋の二階にある喫茶店に入った。マスターは僕らのことを覚えていたようで、僕らがお店に入ると「久しぶり」と言って出迎えてくれた。

 前と同じく、僕以外の三人はアイスコーヒー、僕はアイスカフェラテを頼んだ。もうかなり肌寒いので温かい飲み物を頼んでもよいのだけど、高校生の性分なのか冷たい飲み物をつい頼んでしまう。

 ガムシロップをコップに注いで、ストローでかき混ぜながら伊藤さんが言う。

「ねえ、みんな卒業後の進路はどうするの?」

 ストローから口を離した紀夫と小山さんが言う。

「俺は看護師になろうと思っているから、市内の看護学校に進学かな」

「私は医療系の大学に進学したいと思っている」

「あっ、私も看護学校なんだ。三代くんは?」

「とりあえず理系の学科に進みたいと思っているけど、具体的な志望校までは決めていない」

 僕はなんだが恥ずかしかった。三人ともなりたい職業を見据えて進学を考えていて、きっと二年後の四月の自分の姿を思い描いているのだろう。それに比べて僕ときたら、まだ自分の将来像を具体的に見据えられていない。

 僕は僕が思っているよりも、何も考えずに生きていることを思い知らされた。

 急にお店の中が静かになったように感じた。三人の声がどこか遠く離れてしまい、他のお客さんがソーサーにカップを置く音が強調されて聞こえてくるようだった。

 結局僕のグラスの中身だけ減りが早かった。

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