第6話 武器売買阻止。その1

 ボイジャーズ・ワーフから車で30分ほどの郊外にある町『ラアビエルタ』。

 ラプラタの富裕層が週末を過ごすベッドタウンとして、コロニアル様式の住宅やアパートが立ち並ぶ、開放的な空気を感じさせる地区である。

 タカシたちの住居兼事務所――クリーム色の外壁に赤いスペイン瓦が特徴のスパニッシュコロニアル様式の平屋住宅――は、そんな一角にあった。


―― 6:30、『タカシ&アイリス』ラアビエルタ自宅 ――


 タカシは、ベッドで目覚める。

 今日もスッキリした朝だ。


「おはようございます。タカシさま」


 隣で寝ていたアイリスが、タカシに囁きかける。


「……あぁ、おはよう。アイリス」


 アイリスはタカシが起きたのを確認すると、素肌の上にアジアン風のナイトガウンを羽織りながらベッドを降り、キッチンに歩いて行った。

 ……少し遅れて、部屋着に着替えたタカシが居間のソファーにもたれかかり、朝食の支度をするアイリスの後ろ姿を眺めていた。


『――あんなイイ女が実在するなんて、まだ夢でも見てる気分だ』


 ……朝日を浴びて、ガウンから透けるアイリスの裸体を見て、魅了チャームに抵抗できる男はいないのではないか?と、思えるほどアイリスは魅力的で美しかった。


 しばらくして、朝食の準備を終えたアイリスがタカシを見る。

 タカシは、ソファーを立ちキッチンテーブルにつく。


 昨晩にアイリスと一緒に料理した残りモノにビーツを加えたボルシチ風スープと、サワークリームに生ハムをトッピングしたライ麦パンで朝食をとる。



 食後は居間に戻り、アイリス秘伝の淹れたてコーヒーを飲みながらニュースを観る。



―― 8:30、『タカシ&アイリス』ラアビエルタ自宅 ――


<ブーン。ブーーン。ブン!>


 テーブルに置いた携帯端末スマホの呼び鈴が鳴り、一通のメールが届く。

 タカシはメールを確認すると、特別製のジャミングアプリを起動して送り主に電話をかける。――すぐに相手が出る。


『ご機嫌いかがかな?タカシ君』


 少し気どっだ口調の男が、タカシに挨拶する。


「……久しぶりです、エージェント・マンデー」


――エージェント・マンデー――

 合衆国ステイツの役人で、特定の組織に属さず単独で行動している。

 安全保障の名の下に過激な手段で問題解決を図るため内外問わず敵が多く、……時折、タカシたちに仕事(大抵は非合法な)を依頼してくる。


『……早速、仕事を依頼したいのだが?』


 エージェントマンデーの依頼を要約すると『武器売買の阻止』である。

 この島では珍しくもないが……、横流しされた押収品を扱う武器密売人が『白い羊たち』と呼ばれるテログループに1個小隊分の武器を売却する。

 彼らは入手した武器でへのテロを計画しているそうだ。

 当然、合衆国の役人としては看過できるわけもなく、タカシたちに依頼してきたわけである。


『さて、どうしようか……』


 タカシが判断するためには、もう少し情報が欲しいのでマンデーに質問する。


「……取引場所と日時は特定できてるのか?」


『取引場所は『リトルハロングベイ』。日時は24時間以内としか分らない』


「ふむー」


 タカシはエージェント・マンデーの依頼内容を反芻する。


『――今は経済的に余裕があるから、リスクを考えると断ってもいいのだが……。』


 タカシは、チラッとアイリスのすまし顔を見る。


「……よし、わかった。依頼を受けるよ」


 タカシはひとつ貸しを作ってやろうと考え、『武器売買の阻止』の依頼を受けることにした。

 当然、こちらの状況を把握しているであろうエージェント・マンデーもタカシの意図を理解して便宜を図ることを約束した。


 さて、仕事だ!

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