第20話 順と結衣でお鍋

 その後、1時間ぐらいすると会議室から海上保安庁の職員と朱里のご両親が出てきて、用が済んだのか帰っていった。

 俺たち職員はどうすることも出来ないので、とりあえずはいつも通りにすることにした。

 授業準備もある程度できて、特にすることもなかったので家に帰ることにした。帰る途中に順が家に来るとメールをしてきたので、歓迎の意を込めてスーパーによって鍋のセットを買った。白菜に肉に白滝にネギ、あとは出汁なんかを買ってレジに向かった。自分の前には中学生ぐらいの女の子がお菓子を買うためにお金を払っていたのだが、なんだか戸惑っているらしい。

 「どうしたのかな?」

 と、声をかけてあげた。すると、

 「すみません、これを返しに行くんで少し待っててもらってもいいですか?」

 と言われた。

 「なぜ返しに行くの?」

 「お金が、足りないんです」

 「どれくらい足りないの?」

 「180円です...」

 どうもお金が足りないみたいだった。しかしこの女の子何処かで見たことがある気がした。よくしゃべっていた感じのさわやかな女の子で、初めてあった気がしなかった。

 「じゃあ、お兄さんが出してあげるから買いな」

 「いえいえ 悪いですよ」

 「別にいいんだよ」

 そういって女の子のお菓子と俺の晩御飯の用意を一緒に支払って、女の子にお菓子をあげた。女の子は喜んでいた。

 「また、会いに行きますね」

 と、小声で言った気がしたが、聞き間違えたのだろうと思って、気にしなかった。

 家に帰ると、家にはもう順がいた。順と結衣が仲良さそうに話していて、俺も話の中に入っていった。そして、今日の話題を話しているときに、朱里を殺したことを知っている結衣と順に朱里の遺体が行方不明になったことを話した。すると順が奇妙なことを話し始めた。

 「なんかな、昔ホンマにあった怪談やねんけどさ、ある女の子がおってんな、17歳の子やねんけど。その子には彼氏がおってん。でな、その彼氏と遊びに行ってるとき?まあデートに言ってるときに車にひかれて死んでしまってん」

 「で、どうなったの?」

 「まあまあ落ち着いて聞いてや」

 「そのときにおった彼氏の子はな、その女の子に会いたいって毎日お願いしてたんやって。じゃあな、ある日突然死んだところの近くを通った時にな、その女の子を見つけてんて。はっきり歩いてるのを見た男の子はな、走って女の子の元に行ってんて。じゃあ女の子もずっとな、もう一度会いたいっておまじないをしてたらしい。女の子は親には言わんといてほしいって言ったんやって。だから家で一緒に過ごしてたんやって。ある日な、その親が男の子のところに来て、『一緒にお墓参りに行きませんか?』って聞かれて一緒に行ったんやって。じゃあな、お墓から骨が消えてたんやって」

 「そんなことがあったのか」

 俺が話したことに何の関係があるのか正直分からなかったが、せっかく話してくれたんでし覚えとこうと思った。

 結衣が、

「おなかすいた」

 と言い出したので、さっそく鍋を作り始めることにした。

 リビングの真ん中にある机に、お鍋を置いて具材を入れていった。俺の好みでキムチ鍋を買ってきたので、そのスープも鍋に入れた。具を入れて数分経つと沸騰してきて、そこから中火ぐらいで温めていくと、おいしそうなにおいが漂ってきた。

 結衣と順はとにかくおなかが空いていたらしいので急いで食べていた。俺は結衣と順にご飯を入れてきて、お茶を持ってきた。そして俺も食べ始めた。

 この時期に鍋っていうのは時期外れでかもしれないし、何よりも熱かった。しかし、おなかが空いていたり今日は海上保安庁の人や朱里のご両親とたくさん話して疲れたのもあって、バクバクと食べた。

 そして、最後にしめを作ることにした。俺の家系でははチーズを入れて雑炊を作るのだが、順の家系ではラーメンを作るらしい。と言っても家にラーメンはなかったので、雑炊を作ることにした。

 俺たちはいつも通りの味で普通においしかった。順はいつもと違うものを食べたので

 「なにこれ!めっちゃおいしいやん」

 と、ゴリゴリの大阪弁をさらけ出して喜んでくれた。

 少し余ったので、どんぶりのお茶碗にいれてラップをして、順に持って帰らせてあげることにした。

 おなかがいっぱいになって洗い物をしていると、結衣と順が手伝いに来てくれた。そして、順が

 「今週末の土曜日さ、一緒に駅前のショッピングモールに行かへん?」

 「前の埋め合わせ?」

 「そうそう」

 と、一緒に出かけようと誘ってくれた。

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