逸見乙喜実VSリリアン

 乙喜実は勘違いしている。

 たまたま見つけた木の実をかじるが如く。

 出来上がったばかりのからあげに手を伸ばすが如く。

 試食コーナーに足を伸ばすが如く。

 気軽に味見されたものだからパニクってしまったのだろう。

 殺意なく、害を加えられるというのはそのくらいショックがあったのだろう。

 だから、一線を超えて覚悟を決めてしまった。

 殺らねば殺られると。殺られるくらいなら殺ってやると。

 でも、リリアンは本当にあと一回同じように味見するに留めるつもりではあった。だから本当にすれ違い。悲しいすれ違いなのだ。

 けれどリリアンも悪い。

 何故なら先の口づけ、彼女は痛がっていた。捕食と評するほどに。

 それはそうだろう。リリアンは自らの舌の表面を変化させて、無数の小さな口に変えていたのだから。そして、数え切れないほどの口を携えた舌で乙喜実かのじょの舌の表面を舐め喰ったのだから。

 しかも、それぞれが独立して動くわけだから、逃げようにもいくつかの口は常に食らいついてるから逃げられない。それこそ、舌の根ごと抜かぬ限り。

 そんなのをもう一度と言ったんだ。乙喜実の勘違いの責の一端はリリアンにもあろう。

 ……いんや、これ確実にリリアンが悪い。乙喜実は悪くない。

 だから。


 ――乙喜実の抱くこの殺意は正当だ



「はぁ……はぁ……」

 リリアンの背後。手からはリリアンの顔の皮と血肉。目はかっぴらいていて、口は暑さに耐える犬の如く開いて呼吸も荒い。口からダラダラ液体を垂れ流すのもより犬のように見える。

 もっとも、彼女の口から垂れ流されているのは血だけれど。

(口の中……う〜うん。舌がやられて血が止まらない。ちょっとの怪我ならすぐ治るのに……どうして?)

 それはリリアンに喰われたから。

 リリアンの唾液に含まれる細胞が傷口を絶えず喰らっているから。痛みはなくとも、喰らっているから。

(このまま出血し続けたら……マズい……?)

 骨折くらいなら問題ないのはわかっているが、大量の出血はわからない。

 でも、案ずるならば、早々に片付けるに越したことはないだろう。

(やっぱり早く済まそう……できるかわからないけど、できなきゃ――邪魔だな……)

 リリアンの血でまみれた手にマナを込めて放出し、血肉を全て弾き飛ばしてから人差し指を立てて眼鏡の真ん中ブリッジへ引っ掛けて外す。

 ポトりと落として、眼鏡を外した痛みで潤む赤い目をリリアンは半分振り向きつつ再生したその顔で睨む。

「ほう? 呼び出しておいて私の面の皮を剥いだかと思えば今度は臨戦態勢か?」

 味見したからこうなっているのだが……本人としては悪いとは思ってない。思っていたとしてもリリンに対してだけ。

 故に、乙喜実のこの行為はリリアンにとっては挑発に他ならない。

「図に乗りやがって人畜生がっ」

「……!」

 その言葉が口火のように、乙喜実はリリアンに肉薄。遠距離技など持ち合わせていないのだから彼女には接近戦の選択肢しかない。

「クハッ! 近づくか? 近づけるのか? この私にィ!」

「…………」

(こんな……感じ……)

「あ……?」

(だっけ?)

 視界から獲物おつきみが消えて疑問符を浮かべるリリアン。当の乙喜実は姿勢を低くしながらさらに背後へ回っている。

(いつの間に?)

 ボタボタダラダラと垂れる血と涙の音によって獲物おつきみを捕捉。

(はじめてだったけど、意外とできるものなんだ……)

 乙喜実かのじょがこの時思い出していたのは、夕美斗と瞬の一戦。それから動画で見た……主に才の試合映像。もちろんコロナとクレマンのも。

 そして、

 一瞬で相手の背後へ移動する方法、即ち空間を歪曲させての移動法。

 乙喜実はマナの扱いはそこまで上手くない。。故に影を使ったりはできないが、大量のマナがあれば大雑把な空間歪曲は可能。

 が、マナの量は申し分なく。なにより、今の乙喜実は二重にキマっている。

 一つは覚悟。戦闘への意識。ただ怯えるのではなく、崖っぷちで怯えながらも抱く殺意。

 もう一つはリリアンとの肉体的接触と同時に行われた体液マナの接触。

 召喚魔法とは花菜とその娘の因子を持つ者、その中で相性の良い生物を引き合わせる為に作ったアノンの魔法ルール

 つまり、先の接触キスは乙喜実の因子を覚醒させるには十二分。

(痛い……痛い痛い痛い! 全然痛み治まらないっ。怖いし、今すぐ帰りたいっ!)

 だからこんな心持ちなのに。

(こんなに痛くて怖いのに……頭も体も冴えてて……とっても……とっても……!)

「……うわぁああ!」

(気持ち悪い!)

 感情と思考のギャップの齟齬に悩みつつも乙喜実はリリアンに立ち向かう。

 この時、既に周りに人は居らず。救援を呼びに言っていた。

 そう、リリンの下へ。

 しかし、彼女はすぐには駆けつけまい。何が起こっているか把握しつつも駆けつけまい。

 何故なら血族の中で唯一残すことにした妹と、お気に入りの人間の小競り合い。これほど彼女にとって良い見世物も珍しいのだから。

「最早無策……とは言わんぞ人畜生……。貴様もアイツと同様強い個体なのだろうからなぁ!!!」

 激昂のリリアン。小指を立てながら腕を振ると、遠心力にでもたぶらかされたか立てた小指が伸びて鞭のように乙喜実へ襲いかかる。

 しかし、乙喜実の心情に変化なし。

 喜怒哀楽どれを取っても捕食される未来しかないのだから。

 相手にもよるが、眼鏡を外している乙喜実にとってはそんな未来モノよりも視たいものがある。

(未来は一つ……過去は一方通行……)

「……っ」

「なっ!?」

 音速まで今一歩まで加速した小指の鞭を軽く屈んでかわす。そのまま肉薄し、再びリリアンの顔へ手のひらを繰り出す。

(さっきは足りなかった気がするから……今度はもう少しだけ……)


 ――ぶちゃあっ!


 乙喜実が触れた鼻、瞼、額の皮と肉が弾ける。ズル剥けて剥き出しのままギョロリと目を向けるも、次の瞬間にはもうそこから消えていた。

 普通、こんな大怪我をさせたら油断して至近距離で様子見してしまうだろう。少なくとも、経験の浅い人間ならば。

 けれど、乙喜実はしっかり距離を取る。

 この程度は傷のうちに入らないということを視たから。

(これを使っての攻略は好きじゃない。でも、命がけなら別) 

 リリアンの重ねた年月は三桁はある。しかし、密度がない。マナもワールドエンドというカテゴリーとはいえ、現在のリリンの十分の一にも満たない。何より他者からの干渉への対策が甘い。

 簡潔に言えば、乙喜実でも視れる程度の情報量ということ。

 如何に強大なマナでも、如何に汎用性の高い優秀な能力でも、どういった力かわかってしまえば攻略法も浮かぼうもの。

 視ているのが乙喜実というなら尚更。

 ゲームとはいえリリンとコンマ数秒の中で駆け引きができて、リリンの反応についてこれるこの娘故がこそ、この赤眼は相応しい。

 そして今、大体視終わった。

(リリンさんの妹なんだ。どおりでソックリ。けど頭の中はだいぶ違うみたい。っていうか凄い世界。家族でも殺し合うんだ。殺伐怖い。と、それは今良い。放置。傾向としては便利な能力なのに搦め手は苦手。でも単純にゴリ押されたら死ぬ。リリンさんとの約束で呼ばれた世界で殺しはしないみたい? さっきのも本当に味見だったみたい。でも冷静に二口目で下顎かじるつもりだったみたい、うん死んでた。それより全力を出さないみたいだからどうにかこの場でマナの扱いに慣れて、頭に叩き込んで脳を壊さなきゃ。脳を壊せば再生するまで無防備みたいだからその間に畳み掛けよう)

 プランも決まったところでより集中。初手から大体変わってないけれど。

「ふぅん!」

 小指だけでなく今度は五本指。一見躱すのは困難に思えるが。

「はぁ……はぁ……――っ!」

 扇状ならば外側に行けば隙間は大きくなる。であれば一度外側に行って避けてから再び踏み込めば良い。そして近づいたらマナを叩き込む。一撃加えたら逃げる。そしてまた攻撃をかい潜りながら近づいて叩き込むのを繰り返すという至極単純な作業。

 そう。避けて、近づいて、叩き込んで、たったそれだけの繰り返し。

「んぶっ! …………ド畜生がァ!」

 浅いが顔全体の皮膚を剥ぐことに成功。眼球が落ちかけるもすぐに治癒が始まっているということはマナでのダメージが足りないということ。

 視て弱点がわかってもダメージを与える為の技術が足りない。だからこの場で会得しないと死ぬかその直前まで食べられてしまうのだが。

(血……いっぱい出てるからかな? 頭冴えてるけど変にふわふわ感ある……。ハハ……私も出血多量とかなるんだ……。元々あの人が約束破って覚悟決まるまでのタイムアタックかと思ってたけど、どっちかっていうと出血での時間制限のがキツいのかな?)

「あ」

 派手に動いてた所為か、ヘアピンが外れる。

「…………」

 すぐさまキャッチしたが、見つめたままでまだつけない。

(髪、邪魔かな)

 普段は片側だけヘアピンで留めてアシンメトリーにすることが多い。または片側から逆へ流しながら止めて斜めにたゆむように。

 が、それだと今は少し邪魔だと判断し、髪をかきあげてオールバックにしてのセンター上のところで留める。

(些細な差だけど、少しでも視界があったほうがやりやすい)

 髪型を気にするのは周囲から浮きすぎないため。ゲームをやるときはゴーグルタイプなので髪は気にならない。だから後者はともかく前者よりも視界を優先してのコレ。

 コレがどの程度戦況に影響するかはわからないけれど、それでもやったほうが良いと直感が囁く。

(あっちも回復し終わっちゃったか。慎重になってモタモタしすぎた。足の方はほぼ慣れたし、あとは手の方。次からは連打で技熟練度けいけんち稼ぐ)

「はぁ……はぁ……はぁ……!」

 開けっぱの口から血と唾液がだだ漏れても気にしないほどに集中力を高める。出血量からしてこの先は思考にエネルギーと時間は回せない。ただひたすら叩き込んで逃げる時間を作るか殺すしかない。

(考えない……考えない……考えない……考えずにただ叩く――いや)

 それじゃ殺意が足りない。人が人を無手で殺める時、必ずと言っていいほど。

(殴る!)

 拳は固めているものだから。

「少しだけ、加減はやめてやろう人畜生! 貴様には両の手でもまだ足りない!」

「……!」

 捨て始めた思考をほんの少し戻される。

 凝った衣装ながら剥き出しにされたリリアンの背中から歪な肉付きに多関節の腕が計六本生えてきたから。

 もし、その腕全てを使って亜音速の鞭を繰り出されたら――。

(関係ない)

 どうせ一発でも喰らえば回復してる間に喰われてゲームオーバー。ならば難度が上がっただけでやることは同じ。

 躱して、殴る。それだけのこと。

「すぅぁあ〜…………はぁあ〜…………」

 止め処なく溢れる血は無視して、目を開けば当たる光が増して比例して輝きも強くなり、マナは必要なところで密度を上げてほんの少し四肢の末端周りが歪む。ダラリと下げた両手、力を抜きすぎてやや内股になりながらもつま先に乗る体重。

 臨戦態勢は完璧に整った。

「…………」

(良い雰囲気を出しやがる。人畜生の分際で)

 リリアンも乙喜実の雰囲気の変わり様をようやく肌で感じ取り、意識を切り替える。ハエ叩きから捕獲程度までに。

 だからこそ。

「……!?」


 ――パァン!


 リリアンが右手を振れば乙喜実は反射的にしゃがんで躱す。

 頭上二十センチあたりで空気が弾ける音を聞き、先程よりも速度が勝っていることを察する。

「……っ!」

 けれど怯まず。一拍置く前には駆け出していた。

「ふぅううううう!」

 同時にリリアンも両手と背中の三対六腕を出鱈目に振り回す。

 マナによる保護をせずに瞬間的にでも音速に至ればただの肉は弾けてしまう。即ち、八本の腕はそれぞれが空気の壁にぶち当たり、血を撒き散らしながら襲いかかる。

「は……っ! は……っ! は……っ!」

 犬のような呼吸音を奏でながら鞭腕も血も避けに避ける乙喜実。客席にいる他の生徒の、自らの血以外で汚れない鮮やかな回避力に感嘆が漏れるよう。

 が、これは余裕があってのことではない。

 リリアンの肉体に弾く以外で触れることの危険性は舌でも目でも確認済み。血もリリアンの気持ち一つでそこから生き物が湧いて出るのも既に視ている。であれば血に触れるのもアウト。

 血すら躱して凄い……のではなく、触れた時点で殺されかねないからそうするしかないのが正しい。

「チィ……」

(当たらない。人畜生の分際で)

 音速に反応しやがる。そう言いたげに顔をしかめるリリアンであるが、そんな考えを持つ余裕なんて。

「あ……――くぴゅ」


 ――グチャアン!


「……手応えあったてほはへはっら

 顔面にマナを打ち込んだ時の肉を弾く心地良くもグロテスクな感覚に思わずやや口角が上がり、言葉が漏れる。

 それくらい、今の一撃は綺麗に入った。

(……よ〜しほ〜しもう一回ほうひっはい)

「……ほぁ!?」

 これから行くぞという時に、顔面の肉が弾け、額と鼻が陥没し、骨と眼球が脳にめり込み前頭葉は半壊。視界も消えてしまっているのに八本の腕は未だ出鱈目に振り回されている。

 先ほどまでは出鱈目といえど思考しながらのだったので読めもしたが、脳へのダメージで意識下での攻撃でなくなってる本当の出鱈目な攻撃の所為で追撃もままならない。

 だが、マナを深くへ打ち込んだおかげで回復が著しく遅くなっている。

 これは紛れもなく好機。

(今もうこっちへの認識はあんまりないだろうけど、完璧じゃない。だけどあと二、三発入れて完全に壊したら認識しなくなるはず。それか腕全部取るか、脊椎の破壊。そしたら殺さなくても逃げる時間はできるかもしれない)

 乙喜実の判断は正しい。リリアンの頭部へマナのダメージを一定以上与えれば捕捉も追撃もできなくなる。才にやられた時のように。

 そうでなくとも神経系の破壊や脳にダメージがある状態で再生できぬようマナを込めながら四肢を取ってしまえばリーチを失って本当にその場でじたばたするしかなくなる。

 いずれにせよ最低でもあと二、三発。ゴールは近い。

「はぁ……! はぁ……!」

 強い希望の光が見えて乙喜実の心臓も早鐘を鳴らす。心拍は自ら乙喜実の出血量を上げていく。

 昂ぶりは、当人に好機の中の危機を気づかせてくれない。


 ――ガチン! タァンッ! 


 だらしなく開いていた顎を閉じて歯を鳴らす。前傾になりながら片足を離してから強い一歩を踏み出す。

 頭を失ったリリアンはさながらゴキブリの如く。ただジタバタともがくのみ。

 そのもがきによる一撃は致死を秘めようとも。反射神経で、動体視力で躱せるのならば乙喜実にとりあくびをするいとますら設けられよう。

 ならば最早今のリリアンは脅威ではなく。危険となりえる状況を作ろうとするならば、思考あたまを取り戻した後に言いつけを破って物量によって殺しに来た時のみ。

 つまり、最早リリアンに負ける要素は一つだけ。

「……!」


 ――パァン!


「……っ。…………っ」


 ――ピクピク……ピク……ッ


 歯の隙間から血を撒きながら接近してうなじ部分から全面の方への一撃。

 脳は体から離れ、四対の腕の動きはあからさまに鈍くなる。

(保険……っ)


 ――ぶちゃん! ビチチッ!


 転がった頭のほうへ向かうと触れるまで数ミリの位置からマナを放ち脳を四散。

 弾けた脳の破片はそれぞれが痙攣し、再生が妨げられているのが見て取れる。

(ここまでやればもう逃げても――)


 ――ぐちゃ


「……?」

(今の音は……?)

 不穏な音のほうへ目を向けると、そこには。


 ――ぐちゃ……ぐちゃちゃ……びちゃ……くち……くちゅち……


「……ぅ!」

 傷口を抉り、乙喜実のマナが触れた部分を千切り取っている。

 しかし、乙喜実が呻いたのはそのグロテスクな様の所為ではない。

(頭が……貧血……? 違う。過去じょうほうが……増える……っ! 凄い勢いで……!)

 先のくち付けで乙喜実の因子が反応したように、リリアンの因子も反応し始めて、進化を選択する。

 ただ触れただけで反応する次元ではなく、強敵との戦闘という要素が加わったが故の遅れての反応が今起こり始めた。


 ――ぶくく……ぐちゅじゅ……ぶく……ぶぐじゅるるぅ……


 リリアンの細胞にくたいはマナで傷ついた部位を取り、遺伝子情報から脳を再生しようとしている。

 胴体から離れる直前の記憶を持った脳を。

(マズい……マズいマズいマズい! 早くもう一回打ち込んで――)

「……ぁ」


 ――バタン


 一瞬両目が上を向き、平衡感覚を失って倒れる。

 時間制限。乙喜実の出血量は限界に到達してしまった。

 もう、彼女は動けまい。

(ぁ……れ……? 体が……頭も……急に……。なん……で……?)

 失血により思考力も失い、自分の状況もわからない。

 これは完全に戦闘不能。

 反してリリアンは。

「――ふぅ。褒めてやろう人畜生。私の肉体をここまで破壊したのは血族を除けば二人目だ。誇ると良い。誇ったまま――」

 リリアンの目的は味見でなくなり。捕食でなくなり。制圧でなくなり。戦闘でなくなり。

「死ぬと良い」

 純粋な生存競争による淘汰へと変わっていた。


 ――ブクブクブクブクブクブクブクブクブクブクブクブク!


 背中の肉が膨れ上がり、ネズミを生産し始めた。

 どんどんどんどん膨れ上がり、規模の果てとして据えるは半径十キロ程度に存在する動物全てを食い散らかすこと。

 念の為。本当に念の為としてある程度の距離にいるモノ全てを殲滅する。それがリリアンの乙喜実に対する敬意のようなモノ。

 そんな感情。持ち合わせていないので他に形容詞ようがないが、一応敬意と表そう。

 肉の膨張は今や高さ五メートルほどで横幅四メートル。ネズミが放たれるまではここからさらに数倍膨れてからになるがこのまま膨れ続けるだけで乙喜実は圧死は免れない。

 それは彼女の望むところではない。

「――ここまでだな」

「へ、あ、おねえさ――」


 ――ギュン


 …………。

 ………………。

 …………………………。

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