とある少女の春休み、予定が一つ決まりましたとさ ※乙喜実視点

「……あ、Lilinさんだ」

 最近色々あってインできてなくて憂鬱だったけど、入って早々いたのは嬉しいなぁ。

 早速対戦申込も。どのゲームが良いかな?

 レトロ格ゲーは当然として……ドットにするかポリゴンか。フルダイブじゃなきゃ3Dでも良いんだけど……。

「へへ、ぜいたくぜいたく……」

 ネッ友とはいえ友達は友達。普段ソロかランマチしかしない身からすると誰かとゲームするってだけで満足感パない。

 ぼっちも嫌じゃないし、誰かとなにかするのも……嫌いじゃない。苦手だし、なによりギルドとかはたくさんの人のがし、ヤバい人ばっかだしで萎縮しちゃう。

 まぁ、格ゲーでもけど。でも、ひとりずつなだけマシ。

 そんな中、Lilinさんはから好き。嬉しくて自分からチャット送ったくらい。あの時は心臓破けるかと思ったけど、勇気出して良かった。本当に。

 だって返信頻繁にしてくれるし。たくさん対戦してくれるし。誘ったゲーム一通りしてくれるし。あとお話が面白い。そもそも話し方がロープレしてるのかな? 変わってて、しかもブレない。きっとものすんごいこだわってキャラ作ってるんだろうなぁ〜。会話の節々から芯の強さと凝り性な感じがするし。

 と、まずはご挨拶しなきゃ。

『Lilinさん。こんにちは』

『久しいな黄身。といっても貴様基準だが』

 あ〜この感じ。Lilinさんだぁ〜。一ヶ月くらい絡んでないからこっちとしては久しぶりなんだけど、ロリババアキャラのLilinさんにとっては瞬き程度という設定をこっちが知ってるという体での対話。やっぱり凝ってるし、ちゃんとロープレしててすごいなぁ〜。これで大体のゲーム上手くこなすんだからダサくならないんだよね。これで雑魚だったら正直イタいだけ。いや、まぁ、強くてもイタいかイタくないかで言えばイタいけども。

 それでも私のHNハンネよか全然マシだけども。『乙喜実おつきみ』だから『キミ』って呼ばれること多くてだったら『黄身』で良いやって安直に決めなきゃ良かったっ。あ〜……過去の自分がまるで目の前にいるかのように鮮明に過去が〜……っ。

 い、いけないいけない。せっかく久しぶりにLilinさんと絡んでるんだから。鬱を癒やしてもらわねば。

『しかし、いつもネットやらゲームに入り浸ってる貴様が一月ひとつき離れるとは珍しい。なにかあったのか?』

「ぐ……っ」 

 癒やしてもらえれば良かったんだけど、エグって来ましたねLilinさん……。

 いやまぁ当然の疑問ですよね。私が小三から今に至るまで家内通信義務教育者ないつうしゃって話してるし。毎朝課題を最初の一時間で終わらせてあとはゲームしてたのもついでに話しちゃったし。そりゃあ当然の疑問だよね。しかもLilinさんはズバズバ聞いてくるタイプだからわかりきってた現在みらいだった。

 まぁ、正直な人だから好きなんだけどね。

『実は高校も内通を考えてたんですけど、両親から召喚魔法師の学校行けって言われて。それで色々抵抗しててって感じです。まぁ、無駄だったんですけどね。母方の実家にご意見番っていうか、大おばあちゃんがいて、その人の意向だと逆らえないんですよ。わかってても受け止められないから抵抗したんですけれど。虚しく無意味に。とりあえず試験だけは受けるけど、落ちたらないつうでも良いってことで落ち着きました』

『なるほどな』

 長文なのに秒でレス。普通なら読んでないだろって思うとこだけど、この人速読できるからちゃんと理解した上で返信くれるんだよね。しかも私が外出るのは良いけど人が多いところは滅多に行かないってことも知ってるから何が嫌とか聞かないし。最高っすLilinさん。

 まぁ、十月に件の学校の学園祭に行ってるから完全に嫌ってわけでもないんだけどね。

 ただ、外出だけならいざ知らず、学校だと外さないといけない場面も出てくるから嫌ってだけ。

『まぁ、我としては勧めるぞ。貴様にとって面白いことが起きるだろうから』

 お、Lilinさんの予言キタコレ。

 この人の言うことやたら当たるからお言葉をもらったら信用したほうが良い……んだけど。

 でも、学校は……。

『私、やっぱり不安で……』

『試験を受けるだけなのに、まるで受かるのがわかってるかのようだな。?』

 やたら当たるだけでなく、やたら解像度の高い見透かしたことも言ってくるんだよね。そっちは怖いからやめてほしい。

 それに、たぶん私は受かります。手抜きしたら大おばあちゃんにはバレちゃうから、そうなったら後が怖くてわざと筆記で落ちるのは無理だし。召喚テストもマナが多い人が良いの出るから受かるって聞いてるし。だったら私はほぼ確定だよ。

 親戚にはマナ隠すの上手い人もいるらしいけど、召喚魔法って潜在マナで決まるみたいだから意味ないもんね。

『言いたいこともわかるがな。貴様は陰キャぶってる臆病者のクセに自信家で、裏付けもちゃんとある奴だからな』

「えへへ……」

 言葉はちょっと厳しいけど褒めてくれてるというか評価されてるのがわかる。やっぱLilinしゃんしゅき。

 同性でも惚れちまうね。

 んまぁ、私別に恋愛脳じゃないけど。というか恋愛に興味はあんまりないけど。

 だって、あるし。それで割と満足できたし。てか怖いから別に自分が経験しなくても良いかなって。

 と、褒められて浮かれてる場合じゃない。レスレスっと。

『学校に通うっていうのが嫌っていうのがまずありますが、あそこ全寮制じゃないですか? それも嫌なんですよ。たまのおでかけならともかく生活環境めちゃめちゃ変わるっていうか……』

『問題ない。恐らく貴様ならすぐ慣れる』

 理解者感すごい。事実両親よりも私の性格わかってるし。

 でもなんていうか、学校のこともよく知ってそう。話し方の所為?

『が、現状を見るにモチベーションがないのも理解できる。特に褒美が出るわけじゃないんだろう?』

『そうですね。ただ学校入れとしか言われてません』

『仕方ない。ならば我から褒美をくれてやる。何が良い?』

「え」

 Lilinさんからご褒美……っ!

 なんかこう……えっちです!

 いや落ち着け落ち着け。餅つけキミ。えっちなのは私であってLilinさんじゃない。知り合って間もない頃に処女だって言ってたし。

 あ、いやでも同居人とチューしてるとは聞いたことあった。やっぱえっちです。

 そんなLilinさんからえっちなご褒美……もといがんばる為のモチベを上げる為の厚意……か。

 どうしよう。欲しいものはゲームのイベントで賞金稼げば大体なんとかなるし。Lilinさんからしかいただけない栄養素……。

「…………………………オフ会」

 現代でまともにやってる人も少なくなってるオフ会。私は別の理由でしてこなかったオフ会。これはLilinさんにしかできないこと。私が《視えない》唯一の人で。だからこそ会ってみたいって思える人。

「ごくり」

 お願い……してみようかな。せっかくの機会だし。だ、ダメ元って感じで。

『じゃ、じゃあオフ会とかどうです? 春休み入ってて暇なんで』

『春休み関係なく暇だろう貴様』

 ごもっとも過ぎますはい……。

 まぁでも、この呆れ方だと断られ――。

『が、まぁいいぞ。で、いつにする?』

「…………」

 えっと……この良いぞって話の流れ的に……。

「ひゅっ」

 ま、ま、ま、ま、ま、ま……っ!

「マジで!?!?!!!?!??!!?!!??!??!!!??!?」

 突然に、唐突に、春休みにまさかの予定ができちゃった!!?

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