プロローグ
『警告! 警告! 現在入試実技試験会場より膨大なマナ反応を検知しました! 推定
受験生――
異界へと通じるその扉から漏れ出るマナは星一つを壊しかねないほど強大で、たかだか心得のある教師が数名来たところで大して意味はない。ただの、義務というだけ。
「あばばばばばばばばばばばばばばばばばばばばばばばばばばば……っ」
とはいえ、この危機を呼んでしまった張本人の尋常ならざる狼狽えようからして、誰かが近くにいるというのは多少なりとも心の支えとなろう。
「落ち着きなさい。気をしっかりもって、君のパートナーを迎えるんだ。大丈夫。警報は出ているけど心配する必要はない」
「ばばばばば――あ、は、はい……」
少女の下へかけつけた教師が声をかける。その声には恐れなど一切なく、だからこそ彼女に少しだけ安心を与えることができる。
当然根拠がないなんてことはない。教師陣は去年の事件を踏まえて念の為この入学試験に際して助っ人を呼んであるから。
その助っ人はこの場にはいないが、近くの控室で待機している。故に彼らは落ち着いた様子で彼女に接することができるのだ。
だが、その他力本願は少しばかり危険と言わざるを得ない。
――コツン
「来たぞ」
「ひゅ……っ!」
足音と教師の言葉で再び多少落ち着いた心拍数が跳ね上がる。
バッと勢いよく黒い塊――ゲートへ目を向け、現れたるは。
「……わぁ」
数百年か。はたまた千年か。それほどの太古から引っ張り出したような貴婦人。
正確には貴婦人というには数年足らず、メイクもしていない。また、来ている
けれど彼女がそう感じるのも無理はない。現れた若き貴婦人のその麗しい見目の所為だから。
白に近いほど色素の薄い
なんて綺麗で、儚げな美しき貴婦人なんだろうか。彼女も、周りの人間も皆そう感じていて。
同時に、全員こんなことを思う。
(もし、あの人と会ってなかったらもっと感動していたかも)
既に同じ印象を別のヒトで覚えている。だから見惚れることはあっても、我を失うほど陶酔することはない。
「……
「……っ」
(あ、しゃべった。声まで似てる)
ゲートが閉じ、辺りを見回しながらつぶやく客人の様子をうかがう。
「この香り、間違いなくお姉様。嗚呼、あの時の言葉の意味がようやくわかりました。あの男とお姉様の如く、私にもいるのですねそういうのが」
(……? 激しい独り言だけれど、内容が……というか日本語なのは仕様……? いや、しゃべってる言葉が違って意味がわかる感じだし、グリモアの仕様なのかな?)
最近の召喚魔法にとってグリモアは形を持たずとも概念として成立している。少し前までは形がなければ使えない人間がほとんどだったが、ある日から完全に概念体に変わった。それ故に、彼女は己の存在に刻まれたグリモアを意識して胸を押さえている。
「で、私の
「ひゅ……っ!」
華やかさと雅やかさから一転、ギョロリとした目での威圧。
似た人が現れて解れた緊張も、そのひと睨みで無意味と化した。
「ふぅん」
教師陣は様子を見るも、ただ品定めをしているだけのようなので静観を決め込む。
が、もし仮に妨害しようものなら命がいくつあっても足りないというのはわかっているので、早々に下がって控えている助っ人に任せたいというのが本音。
「すんすん」
「ひ……っ!」
気づけば眼前まで近づいていて、匂いをかがれる乙喜実。
「フム、貴様……」
「ふひゃい……っ! な、なんれしょかっ」
「お姉様の匂いがついているのを差し引いても……フム」
「え」
(お姉様の匂い……? この顔立ちと雰囲気で姉妹がいるということはつまり――)
「よし味見してみよう」
「……味見?」
(それってどういう意味での……)
「ふぎゃ!?」
立て続けの疑問も解消されることはなく、頭を掴まれて引き寄せられる。
そして。
「んぁあ〜む」
「んんんんんんんんんんんんん!!!?!?!?!?!?!!!??!?!!?」
春は出会いの季節。
これは逸見乙喜実のこの春二つ目の出会い。
では一度目は何か。
それはこれから話そう。
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