第11代宰相 ツワ・リンデル・リョウクンの日記  パワードスーツ ガイファント外伝 〜皇太子クンエイは、情報の重要性を実感する。〜 KAC202211

逢明日いずな

第1話 皇太子 ツ・リンケン・クンエイの動き


 ツ・リンケン・クンエイは、帝国大学を首席で卒業し、父の第21代皇帝であるツ・リンクン・エイクオンから、帝国軍の最高司令官の任命を受けた。


 そして、同時に、第22代皇帝の指名を受けることとなった。


「クンエイよ。 我に何かあった際は、お前が、帝国を導くのだ」


 クンエイが22歳、そして皇帝エイクオンが、42歳の時である。


 この年齢での次期皇帝の指名は異例のことと言えるので、出席した貴族と皇族は、言葉を失っていた。




 退出すると、クンエイに声がかかった。


「お兄様、おめでとうございます」


「リズディアか、ありがとう」


 そう言って、クンエイは、リズディアの顔をまじまじと見る。


「お前が、最初の婚約を断った時に言った、学問と人材の必要性、これから、ちゃんと実行してもらうからな」


 リズディアは、苦笑いをする。


「お兄様、まだ、覚えていらっしゃったのですか」


「当たり前だ。 これからの帝国は、東の森の魔物と、近隣諸国との外交だけではたちいかなくなる。 お前が、家庭教師をしたイヨリオンも、成績を伸ばしているじゃないか。 これからの帝国のために役立ててくれ」


「もちろんです。 イヨリオンは、お母様が貴族ではなく、後ろ盾もなかったのですけど、勉強を見てあげたら、とても優秀でしたわ」


「そうなのか? お前は、イルルミューランと会うためにイヨリオンを利用したとばかり思っていたんだがな」


 その一言でリズディアの顔が真っ赤になった。


「お、お兄様。 と、歳下のイルルミューランなど、眼中に、あ、ありませんわ」


 リズディアは、辛うじて反論するが、その表情から、図星を突かれた事が見え見えになっていた。


 そんなリズディアを兄であるクンエイは可愛いと思ったようだ。


 2人は、母親も同じなので、兄妹としての仲も良い。


「お兄様の、ばか」


 そう言って、リズディアは、クンエイから離れると、それを狙ったように、皇帝の従者が傍にくる。


「陛下が渡すものがあるので、後で、部屋に来てほしいとのことです」


 それだけ言うと従者は、去っていった。




 その夜、クンエイは、エイクオンの部屋に行く。


「父上、お呼びでしょうか?」


「ああ、渡すものがあったのでな。 私も父上から預かったのだが、これは、お祖父様の日記だ」


「お祖父様と言いますと、第11代宰相のツワ・リンデル・リョウクン閣下でしょうか」


 それは、羊皮紙のノートに書かれた日記だった。


「そうだ。 お祖父様が、国名と、皇帝と臣民に名前を変更させた。 帝国は、今年で341年となる。 時代は、常に変化しており、この大陸にギルドが無い国は、帝国だけとなってしまった」


「確かに、ギルドは、国ではありませんが、各国に大きな影響を与えております」


「帝国は、亜人奴隷を認めた最後の国になってしまった。 私の代で、それを終わらせようと思ったのだが、未だに残ってしまっている。 癒着している貴族もあるからな」


「その為の貴族の粛清だったのではないですか?」


「それが、なかなか尻尾を掴ませない者が多くてな。 だが、お祖父様の日記は、大いに参考になりそうなのだ。 お前に渡しておくから、これから即位の日まで、それを見て参考にしなさい」


「そうですね。 リョウクン閣下のお話は、伺っております。 参考にさせていただきます」


 エイクオンから、クンエイに、リョウクンの日記が渡った。




 クンエイは、リョウクンの日記を読むと、日記には、帝国の3大公家の乗っ取りについて触れられていたが、読み進めると、これからの帝国の在り方が書いてあった。


 特に、近隣諸国との外交における情報の必要性が論じられていた。


「なるほど、閣下は、各大公家に何人も使用人として内情を探る人を配置し、その情報を伝えるための連絡機関を独自に作っていたのか。 それに、それぞれの大公家が危機的な状況にもあったようだな」


 帝国の皇帝位のツ家と、その血筋を絶やさないための3大公家なのだが、歴史の表舞台に出てこない内容がその日記には書かれていた。


 クンエイは、リョウクンの日記によって、知らされてない事実を知ることになった。


 そして、そのことから、ふと、何かを思いついたような表情をする。


「すると、父上は、リョウクン閣下が行っていた事を参考にして、各国と血縁関係を持たせたのか。 それなら、私に兄弟が多いことも頷ける」


 現に、兄弟姉妹の中には、婚約が決まっているものもおり、成人後に嫁ぐことになっているものも多い。


 リョウクンの日記を読むと、エイクオンの政治の方向性がクンエイにも分かってきたようだ。


「だが、この内容からすると、情報を集めるものと、情報を持ち帰るものが別となるのか。 使用人として家に入って諜報活動を行って、それを家人に気付かれずにとなれば、出入りの業者が情報を持ち帰る」


 納得するような表情をする。


「これなら、気付かれずに情報の受け渡しも可能になるのか。 しかし、これは、業者を抱き込む必要がある。 それだと、業者の選定が難しいのかもしれないな。 ……。 なるほどな」


 クンエイは、何かに納得したようだ。


「だが、私は、そう都合良く、そんな事を引き受けてくれる人材は、私の周りには、居ないな。 それに、これから先、私の次の皇帝が、そんなに都合よく情報を集めてくれる友人を得られるとは思えないな。 ならば、これから先の事を考えなくてはならないのか」


 そう呟くと、天井を見上げる。


「父上は、私に帝国の未来を託そうとしている? そうか、だったら、私の行うことは、運や偶然にとらわれる事なく、安定的に情報を得られるシステムの確立なのか」


 今度は、困ったような表情をする。


「父上は、私に難しい課題を与えるのだな」


 クンエイは、リョウクンの日記を読み、そして、父であるエイクオンの考えについて、自分なりの結論を出した。


 それは、これからの帝国の繁栄を安定させるために必要な事だと認識したようだ。




 クンエイは、情報を得るためのシステムを考えていた。


 個人を使うとしたら、その個人が居なくなってしまえば、崩壊してしまうことになるので、組織として情報を集めるように考えたのだ。


 ただ、帝国軍にも情報部は存在しているので、それとは別の組織にする必要がある。


 そして、その存在を知るものは、限られた一部の者だけにする。


 皇帝と皇太子、それと一部の者だけが知る情報機関とする。


 それと、情報を集める者、その情報を回収する者、回収した情報を精査する者など、システム的な組織として、そして、尻尾を掴まれないようなシステムにする。


 繋がりを途中で遮断できるようにして、情報の逆探知を防止する。


 システムについて、クンエイは、方向性を決めると、エイクオンに報告を入れている。


 後は、隠れ蓑になる組織の設立を行い、そして人員の確保をおこなった。


 人員については、帝国軍から人を確保する。


 能力は有るが、身分の低さから、上がれずにいる貴族以外の人員に目をつけた。


 それを給与面と、実績に応じて、貴族位を与えることを約束し、かき集めた。


 そして、表の顔を持たせるための教育を行い、裏の情報集めという目的を隠すための、表の顔を確実にするため、徹底的に教育を行わせた。


 その際には、皇帝のエイクオンが、イスカミューレン商会を使って、商人としてのイロハを仕込まれた。


 それ以外にも吟遊詩人や、流れの冒険者等、様々な職業に化けられるようにしている。


 そして、組織は設立した。


 その組織は、各国の情報活動用と、帝国内の貴族の秘密を握るために用意された。




 組織が動き出す時、その組織の長が、クンエイに尋ねた。


「殿下。 組織は、十分に機能できると確信しております。 しかし、困った問題が一つあります」


 クンエイは、その言葉を聞いて、何のことなのかと気になった。


 組織として、考えられるシステムを確立し、そして、職員には、最高の教育を施したのだ。


 完璧な組織だと思っていたので、クンエイは、どんな問題があるのかと思ったようだ。


「すまない。 私には、気が付かなかった。 お前の気になる問題について言ってみろ」


「恐れながら、我々の組織の名前ができておりません。 確かに秘密の組織なので、名前など無い方が良いのかもしれませんが、それでは、職員の士気にも影響すると思われます。 それに、何々という秘密の組織があると思わせるにしても、名前は必要だと愚考致します」


「そうか、名前か。 確かに、必要なことだな」


 クンエイは、考えているようだ。


(情報を集めることが主体だな。 遠くの音を聞くための組織か。 ……。 情報を集められそうなもの。 長い耳は、遠くの音を聞くためにあるのだな)


「ウサギのようなもの。 毛の無いウサギか」


 クンエイは、納得したような表情をする。


「そうだな、情報を集める為の大きな耳だ。 僅かな音でも拾える耳、そして、情報だけを集めるが、暗殺のような暗躍するものでは無い。 だから、攻撃をする手段を持たない。 ウサギのようじゃないか」


「はぁ」


 クンエイの話を聞いても、いまいちつながってこないと思った表情をしている。


「ウサギは、早く音を捕まえて、早めに行動することで、生き延びるのだよ。 まるで、この組織のようじゃないか」


「……」


「組織の名前は、兎機関だ。 ウサギの事を“トゥ”と言う国がある。 だから、呼び名は、“トゥ・キカン”と呼ぼう」


「トゥ・機関ですか」


「そうだ、兎機関トゥ キカンだ。 この組織は、情報を集めるだけだ。 情報を集める事が大事であって、それ以上の事は行わない。 情報を伝えることが最優先とされなければならないからな。 それと絶対に手は出させないからな」


「確かに情報を集める事に特化して、危険を避けるために早く動くというなら、ウサギのようでもありますね」


 クンエイは、情報収集の為の組織を作り、潜り込ませた諜報活動員から情報を得られるようにした。


 その事によって、エイクオンの婚姻外交にも大きく貢献する事となった。

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