第18話
フェルはイザリオが戻る前に記事の内容に目を通す。
(7日前の深夜、王都に程近い延焼石採掘場にて見回りをしていたデステアルナの男が狼型の魔獣に襲われた。肩を大きく食いちぎられ男は死亡……。そのほか、採掘場で働いていた者達が複数人怪我を負う。採掘場も大きく荒らされ大損害を受けた。現在も魔獣を追うが消息不明……)
別室の扉が開く音が聞こえ、フェルはイザリオのテーブルから離れる。自分に宛がわれた机の上で書物を整理するふりをした。
(私は1人で……やれる!)
フェルは頭の中で採掘場へ向かう算段を立てた。
魔獣の情報をいち早く手にして自分で調査する。そのためにフェルは大人しく城の者達に従うふりをしていたのだ。
王の騎士は常に王の側に居なければならない。身辺警護役なのだから当然だ。夜間も隣室で眠りながら王の呼び出しに備えている。フェルはその職務を放棄しようとしていた。
今までの無礼は目を瞑れても職務放棄は厳罰を免れないだろう。下手をしたら牢獄行きだ。しかしフェルに恐れなど無かった。頭の中にあるのはただ魔獣を殺すことだけだ。
(騎士の罪なんてどうってことない。私は私の使命の為に行く)
その日の夜、フェルは正義の剣を腰に下げマントを羽織った。手には部屋の白いカーテンを携えている。月が明るく、周囲の様子が見えるほど天気のいい夜だった。
フェルは耳をそばだたせ部屋に近づいてくる者がいないのを確認する。アマヤには早くに仕事を切り上げさせた。
大きな窓をゆっくりと開けると冷たい風がフェルを包み込んだ。城からの脱出経路は昼間城を歩いている間に考えた。近衛兵の巡回ルートと時間も新兵の座学で既に把握済みだ。
(もしかすると魔獣に遭遇するかもしれない)
フェルは武者震いした。
静かに窓を閉めると窓の窪みとベランダを伝って中庭に降り立つ。そのまま低姿勢のまま兵舎へと繋がる回廊を歩く。
そこまでに何名かの近衛兵が歩いていたがフェルは柱の壁に隠れてやり過ごした。
(……一番厄介なのは門だな)
物見があるだけではない、兵の数も多い。城の外に出るには当然北門と南門の二カ所しかなく、飛び越えられる高さではなかった。見張りの騎士は城の内側だけでなく外も周回している。
(上手くいくか分からないけど)
フェルは白いカーテンをマントの上に被る。そして正義の剣をマントの内側からボルチャーを抱えるように右肩に引っ掛けた。遠くから見ればアイオス騎士団に見えなくもない。
(このまま城外と城内の監視が変わる時に紛れ込む)
城の壁を挟んで外側と内側を巡回する兵士がいる。時間ごとに入れ替わるタイミングがあったのでフェルはその時間を狙って城を出ようと考えたのだ。
しかも巡回の兵士は前を行く兵士との感覚がかなり広い。城が広いせいでもあるのだが間近で顔を確認される可能性が低いのだ。
(マントを深く被っていれば平気だろう)
フェルは城内の壁に沿うようにて規則正しく歩き始めた。その動きはアイオス騎士団そのものだ。五十メートルほど先に同じく兵士が壁に沿って歩いているのが見えた。恐らく背後にも兵士が歩いているはず。
門の出入り口が開かれた。フェルは生唾を呑みこむ。
門と物見に控える騎士がフェルと一番接近する。どうしても避けて通ることはできない。そこで上手くやり過ごすことができればいいのだが……。
一歩踏み出すたびに心臓の音が耳元に聞こえてくる。フェルは緊張する自分に苛立った。
なるべくフードを深く被り、胸を張って堂々と歩く。ランプを持った騎士がフェルに声を掛けた。
「おい、お前さん……」
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