第37話

あの件の事があったが、相変わらず

柴と会っていた。お互いに何もないように

振る舞っているうちに忘れ切っていた。

いつもの場所へ向かっていると、不意に聞きなれた

声が聞こえた。

「橘音ちゃん」

「七菜香ちゃん、久しぶりだね」

柴のことで、忙しくて忘れかけていたが、七菜香と会うのは

久しぶりだ。

「実は、新作出させてもらえることになったの」

「えっ、本当に?よかったじゃん」

自分のことではない、七菜香のことだ。

でも、こんなにうれしいことは今までなかった。

「だから、原稿書き終わるまで会えなかったの」

「そうなんだ、でも、引っ越ししちゃったとかじゃなくてよかった」

「しばらくまたここに毎日行けると思う」

「やった、嬉しいな」

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