第35話

「柴くん」

間に合ったみたいだ。

その事実が嬉しくて肩をなでおろしてしまう。

「橘音、、、、」

柴は私が見たことのないほどに暗く、

悲しそうな顔をしていた。

「ねえ、最後の五分だけ、私にくれない?」

柴は渋々首を縦に振った。

「私、柴くんに会えて凄く良かったなって思ってる」

「そっか」

「七菜香ちゃんに会えたのも柴くんのおかげだし」

「うん、そう」

駄目だ、私の言葉では柴の心なんて掴めそうにない。

いつだって何かを残すのは柴だった。

よく、近所の人が言っていた。

『あなたと仲がいい柴くんって人に助けて貰ったわよ、

本当、素敵な子ね』

『柴くんがうちの子を虐めから助けてくれたの』

柴は自分が気づかないうちに人を救いの手を差し伸べて

いる人だ。

いつかは何百人の人を助けるだろう。

将来、柴に助けて貰う人の為に、

今私が引き止めないと。

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