第33話

「柴くん?」

柴がいなかった。

毎日、毎日、いつもの場所に居たのに。

いない日はなかったのに、今日だけはどこにもいなかった。

七菜香は昨日も来なかったので、忙しいのだろうと思えた。

でも、何故か嫌な予感というか、大丈夫ではない気がした。

「兎たち、知ってる?」

返事なんて返ってこないのは分かっているが、何となく声を

掛けた。案の定、返事どころか、こちらを見向きもしない。

「もう少し優しくしてくれてもいいじゃん」

もちろん、この声の意味も理解してくれていない。

「あれ、なんだろ、この紙」

動く気のなさそうな兎の下に紙が置いてある。

柴は兎を重りにしそうだなと感じてしまっていたからか、

兎を無理やり除けて紙を手に取った。

何が書いてあるか、そもそも、何も書いていない

ただの紙切れかもしれない。

冷静に考える頭とは正反対に心臓はバクバクいっていた。

〖橘音、読んでくれてありがとう。

頭の整理がついていかないと思うけど、

聞いてほしい。

現実じゃない場所へ逝ってくる。

さよなら。

      柴より〗

『さよなら』

昨日の柴の声が蘇ってくる。

まさかそんな意味だったのか。

こんな残酷な事はしてはダメだろう。

辛い人にもっと頑張れなんて。

でも、終わりだけはやめて欲しかった。

「とにかく、探さないと」

先は考えずに、駆け出した。

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