第28話

「お待たせ、うちの一番人気の水炊き鍋よ」

「ありがとうございます」

小ぶりの鍋に入れられて運ばれてきた鍋は

水炊きというありふれた簡単な鍋とは思えないほど

華やかで自分の中の水炊きのイメージを塗り替えた。

「いただきます」

最初は遠慮していたが、白い湯気がモクモクと

立っている鍋を見ていると食欲が刺激されてしまった。

白菜は甘く、トロトロとしたくちどけだが、

シャッキリとした程よい食感を残している。

「沢山食べて頂戴」

まだまだ箸を伸ばしてしまいそうだが、

私はごちそうされている身なのは忘れてはいけない。

止まらない食欲を抑えるように

豆苗に箸を伸ばした。

豆苗なら大して高くない食材の上に、

私自身も豆苗は好きな具材だ。

「橘音、さっきから豆苗しか食べてないじゃん」

「私、豆苗が一番好きな鍋の具材だから」

流石に一番は言い過ぎた。

「へー、どこら辺が好きなの」

「おいしいし、栄養高いし、あと、安く付くし」

「それって、もしかして最後のが一番の理由ですか?」

その通りだ。

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