第33夜
おおよその場所については判明した。
「今日で三日目だな」
つむぐは人気のない夜の町中をとぼとぼと歩きながら、自然と愚痴をこぼした。コルトが影の居場所についてをおおよその範囲で導き出すと、あとは全て運任せに町中を歩き回っていた。しかしその範囲は広大で、遭遇するまで町中を捜索しなければならないというのだから、魔法というのもあながち頼りにならない。
「そうだね。まあ、そう簡単には見つからないよ。それでも範囲が定まっているだけありがたいんだけどね」
その横をカンリカが歩きながら、何ともぎこちない笑みを浮かべた。
「そりゃ、簡単には見つからないだろうとは思ってたけど」
つむぐは夜の町並みを眺めながら、変わらないんだなと素直に感じていた。誰かが命を失って、人間じゃない何かがいて、がらりと世界が変わってしまったように感じていたのに、目の前にある町並みや夜風に星空も何一つそのままなのだ。
「ああ、僕が変わったのか」
つむぐは思わず呟くと、自身の言葉だというのに苦笑いをした。
「何が?」
「いやいや、静かすぎるのもなんだか不気味だなと思ってさ」
「ああ。まあ、そうだね」
カンリカは不思議そうに首を傾げたが、特にそれ以上は何も思わかったのか、すぐに辺りに目を配っていた。
やがて何かに気が付いたのか、その視線をある一点で止めると指をさした。
「ねえ、あれ」
「あれ?」
つむぐはカンリカが指をさした方向へと顔を向けた。
その方向には、ちょっとした高台に頑丈そうな白い壁をした三階建ての建物が、広大な土地に堂々とかまえながら下界を見下ろしている。
「あれは、学校だよ。ちなみに僕が通ってる学校でもある。三鷹高等学校っていって特別にどうってこともない学校だよ」
つむぐは自身が通学している学校を見上げながら、自然と溜息をついた。
「ああ、そうなんだ」
カンリカはつむぐの話には特に興味を持っているわけではないらしく、校舎をじっと見つめながら体を左右に動かしている。
「何やってるんだ」
「いや、何か人影が動いたように見えたから」
「人影?」
つむぐも校舎の窓を見つめながら、なかの様子を窺うように目を凝らせるが、そこには暗闇があるだけでなかの様子まではわからない。
「いやいや、警備は意外に厳重だし。それに夏休みっていっても、昼間は部活の学生やその顧問がうろついているんだぞ。そんなところに、わざわざ隠れるような奴はいなだろ」
「いや、でも確かにあそこの窓の所で……」
カンリカは特に意味もないのに背伸びをすると、何とか見えないかと必死になっている。
「学生はこんな時間にいるわけもないし、教師だってさすがにいないだろ」
つむぐは校舎全体を眺めるように見つめると、そこである疑問が頭に浮かび上がった。
「あれ、そういえば」
つむぐは頭の片隅で浮かんだ妙な違和感を持つと、首を捻った。
「何がそういえばなの」
カンリカはつむぐの言葉に反応すると、その視線をつむぐに向ける。
「いや、それが何なのか、どうも思い浮かばないというか。思い出せないというか、何か引っかかりはしたんだけど」
つむぐは一歩後ろに下がると、校舎をじっと見つめる。
「あっ、そうか。明かりが一つもついてないんだ」
つむぐはようやく疑問が解けたというような、すっきりとした顔をする。
「そんなのは昼間とは違うのだから、当たり前ではないのか」
黙っていたコルトは口を開くと、さんざ考えた末に当たり前のことを喋るなと言わんばかりに少し冷めた目で視線を送る。
「いや、違うって。何一つ明かりがついてない方がおかしいんだって」
「ごめん、話が見えないんだけど」
カンリカは小首を傾げると、困った様子でつむぐの話に耳を傾けている。
「いや、うちの学校って防犯対策に、夜中でも一部では明かりをつけたままにしてるはずなんだよ。それにさ、いくら夜っていっても廊下には非常灯も点灯しているところもあるはずだから、あそこまで暗いってことは普通ないだろ」
そう言って見つめる校舎には、確かに明かりはなく、どこか霞がかったようにも見える。
「つまり、普通じゃないってこと」
カンリカは理解したのか「なるほど」と頷く。
「確かに、よく見れば人避けがされているな」
コルトは目を細めながら、そう言うと歩き出す。
「人避けって、おい待てよ。どこに行くんだ」
「決まっているだろうに。疑わしい場所なら調べるだけだ」
「まあ、それはそうなんだけどさ」
つむぐは先を歩くコルトを追いかけると、その後に続いた。
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