第24夜
二人は公園から離れると、川沿いの土手へと足を向けていた。
つむぐは口を閉じて、ただ黙って流れる川を見つめていた。
「初めてだったのか。ああいった、人間の死を見るのは」
コルトもそんなつむぐをあえて見ようとはせず、川の向こう側を眺めながら静かに声を掛けた。
つむぐはしばらく無言でいたが、徐に口を開いた。
「ちょっと前までは普通の高校生だったんだぞ、僕は。普通の日常だったし、普通の生活と平和な世界で呑気に過ごしていたんだ。人がどこかで死んでいるかもしれないなんて、まるで考えもしなかった」
つむぐは、そこで悔しそうに歯を食い縛った。
「だが、現実には起きている。否定をしても、例えどんなに目を背けたとしても、それだけはどうやっても変わりはしない。そして、気が付くと、いつも目の前にやってくる」
「そうかもな。ただ僕はそういったことに感心を持っているようで、実は無感心だったんだよ。いつもテレビに映ったことを見て聞いているだけで、僕は考えることをしなかったんだ。あんなに濃い血の匂いを嗅いだのは初めてだ、最悪だった。本当に胸糞悪い光景だった」
つむぐは苦々しい顔をすると、拳を握りしめた。
「あんなことが起きているなんて、僕は考えもしなかった」
「後悔しているのか」
つむぐの言葉にコルトは静かにそれだけを返すと、ただ黙って口を閉じた。
「わからない。魔法使いになって、馬鹿みたいに浮かれて。自分には何かができるって、そうやって首を突っ込んだ」
つむぐはその場から立ち上がると、空を見上げた。
「知らなければ、きっとそれでよかっただと思う。見なければ知ることもなかったし、自分から動かなければわからないで済んだ。そうすれば、何も考えずにそのまま生きていたんだと思う。でも僕は、そうでない道を選択したんだ」
つむぐはコルトを背中越しに振り返った。
「選択して知ったことなら、その責任は僕にある。今更知らないなんて嘘はつかないし、言い訳もしない。僕はこのまま、自分の信じて選んだ道を進んで行くだけだ」
つむぐはコルトに向き合うと、意思の宿った力強い瞳を見せる。
「それに、どんな理由だろうと、あんなことをしていい権利なんて誰にもない」
コルトはただ黙ったまま、つむぐにゆっくり視線を移すとその瞳を見つめた。そしてコルトもその場から立ち上がると、つむぐに向きう。
「私が思った通り、君には魔法使いの素質がある」
つむぐは、コルトの言葉に力強く頷いた。
「ああ、僕は魔法使いだ」
そう言ったつむぐの顔には、もう何の迷いもなかった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます