第22夜
翌日は悲惨なものだった。全身筋肉痛の痛みに苦しみながら、つむぐはリビングのソファーに寝転びながら、テレビの画面を呆けた顔で眺めていた。
「情けない奴だな。まさか、ここまで動けない程になるとは」
コルトは呆れた顔をして横目でつむぐを見ながら、溜息をついた。
「うるさい。僕は自慢じゃないが、運動が苦手なんだ」
コルトは返事の代わりに肩を落とすと、リモコンを手に取った。
「まあ、昼のうちは勘弁してやる。だが食事をとったら、その後は付き合ってもらうぞ」
「ああ、了解」
つむぐは寝転んだまま、片手を上げて返事をする。しかし何気なくコルトがかけた報道番組の音が耳に入ると、つむぐはテレビの画面を見つめた。テレビの画面には殺人の二文字があり、ニュースキャスターが事件のあらましを話している。
「相変わらず物騒な世の中だな。おまけに、最近は意味もなく人を殺す事件が多いし、町中を歩いていたら背中から刺されてもおかしくない」
「命を奪うのに意味がないなんてことはないだろ。少なからずその原因はある」
「いやいや、やりたかったからとか、何となくなんて理由は最近じゃ珍しくもないぞ」
コルトはテレビを見る視線をふいにつむぐに移すと「それでも、意味はある」と言うと、視線をテレビに戻した。
そして、しばらくテレビの番組を見続けていると、つむぐは顔をしかめた。
「家族が襲われて、子供だけが助かったのか。嫌な話だ」
「そういえば、君の家族はどこにいるんだ。いつもこのだだっ広い家に一人だが」
コルトは何気なく、いつもの口調で言うと家のなかを見渡した。
「仏間の仏壇を見ただろ、僕の両親はとっくの昔に事故で死んでるよ。僕を育ててくれたのは爺さんだったけど、爺さんも三年前に死んだ。その後はずっと、爺さんの親友だったって人が何かと面倒を見てくれている」
つむぐは特に気にする様子もなく答えると、欠伸をした。
コルトも特にそれに以上は追及することもなく「そうか」とだけ言うと、テレビにまた視線を移す。
しかし次の瞬間、つむぐは驚きの声を上げた。
「おい、これってすぐ近所のことじゃないか」
つむぐは思わずソファーから起き上がると、リモコンでテレビの音量を上げた。現場として映し出された場所には鬱蒼とした木々と、記憶に新しい風景が映し出される。
「あの、公園か」
コルトは目を細めると、テレビに映し出された風景を見つめた。
「ああ、でもまさかそんなことが起きるなんて思いもしなかった」
「先程テレビを見ながら物騒な世の中だと言ってただろう。現実に危険なことが有り触れているにもかかわらず、身の回りでは決して起きないなんてことはありえないよ」
「それは、そうだけど。気持ちのいい話じゃない、それよりも」
「君は、まさか首を突っ込むつもりか。言っておくが、君にはそんな義務はないんだぞ」
コルトは呆れた顔をすると、他人事のように話した。
つむぐはその態度に怪訝そうにするも、その瞳はまっすぐにコルトを睨み返すように見つめる。
「僕は少なくとも、そうしたいと思ってる」
コルトもまたまっすぐにつむぐの瞳を見つめ返すと、ふと嬉しそうに笑みを浮かべた。
「なるほど、君はそういう男か。わかった手を貸そう、しかし君はそんな体で動けるのか」
つむぐはコルトの笑みにたじろぎながら、耳を赤して背中を向けると「もう少しだけ、待ってくれ」とだけ言葉を返した。
昼の食事を終えると、つむぐはある程度動くようになった体でコルトと共に公園へと足を向けていた。
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