第19夜
公園に着くと二人は、つむぐは以前に鍵祭りの時に使われていた会場よりも、更に奥へと足を進めていた。水車小屋と呼ばれる小屋の脇道へと入り、鬱蒼とする木々に囲まれた小さな広場へとコルトを案内する。辺りには人影もなく、鬱蒼とした木々の先には民家もなく、多少の音では決して聞こえることはない。
「こんな場所でいいか?」
つむぐは振り返りながら辺りを見回して、コルトに話しかけた。
「ああ、そうだな。うむ、これならば問題ない」
コルトも辺りを一度見回して確認すると、頷いて見せた。
「それで、どうするんだ」
「そうだな。まずは私と正式に契約を結んでもらう」
「それをすると、僕はどうなるんだ」
「魔法使いになる」
つむぐは頭のなかで魔法少女のように、煌びやかに変身する自身の姿を思い浮かべると、思わす苦笑いをした。
「何か勘違いをしているようだが、煌びやかに踊りながら、くるくると回る必要はないぞ」
コルトは少し呆れた顔をしながら、右手を差し出した。
「ほれ、とりあえず掴め。実際にやった方が早い」
「うん、ああ……」
つむぐは差し出された右手を少し緊張気味に見つめながら、やがてゆっくりと差し出された手を握った。
するとコルトの体が光の粒子に変わると、収束して一丁の拳銃としてつむぐの右手に収まった。鈍色の銃身に木漏れ日の光が反射しながら、宝石のように輝いている。つむぐは手にコルトの質感を確かめながら、その銃口を前へと向けた。
そしてしばらくの間その姿勢のままでいると、つむぐはふと呟いた。
「なあ、特に変わったようには見えないんだけど」
『まあ、そうだろうな。傍から見れば、ただの馬鹿だな』
つむぐはその言葉に、顔を赤くする。
「じゃあ、早く言えよ」
『いや、すまん。君があんまりにも私を構えた姿に浸っていたものだから、ついな』
つむぐはコルトへと言い返そうとしたが、それを喉元で飲み込むと軽く息を吐いた。
「それで、ここからどうすればいいんだ」
『ああ、まずは私とのリンクを作る』
「リンク?」
つむぐは姿勢を崩すと、コルトを目の前に持ってくる。
『リンクというのは、簡単に言えば私との繋がりを作って、力の分配をできるようにすることだ。よくあるだろ、血の契約だとか魂の絆とか、そんな感じだ』
「それって、だいたい僕に害があるとか多大な副作用的な何かがあるとか。それもよくある話なんだが、それはあるのか?」
コルトはつむぐのその問いにしばらく間を置くと『ない』とだけ一言で答えた。
「おい、何だ、今の間は。言っとくけど僕は魂を引き換えになんていうのは御免だぞ」
『安心しろ、そこまでのものを差し出す必要はない。そうだな、私を使うたびに甚大な生命力や命そのものを少し削る可能性があるだけだ』
「それは何とも。つまりコルトを使って死ぬ可能性があると」
つむぐは冷や汗をかいて、顔を引きつらせる。
『安心しろ。魔法使いになる道を選んだ時点で、人間らしい死に方などできん。さっさと覚悟を決めろ、もうつむぐは充分にこっち側に首を突っ込んでいるぞ』
つむぐは少し考えた末に、心のなかでにやり笑っているコルトの顔を思い浮かべながら、溜息交じりに肩を落とした。
「もう、何でもいいよ」
『まったく、手間がかかるな君は。さて、早速だがリンクを作るのは簡単だ。君の血を私に注げばそれでいい、あとは私との相性が合えばそれで契約は完了だ』
「それだけでいいのか」
『うむ』
つむぐはしばらくして覚悟を決めると、指先を持ってきたカッターナイフで切ると、少し緊張した面持ちでコルトに血を垂らし始めた。
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