第18夜
リビングへとつむぐが向かうと、コルトは椅子に腰かけていた。
「忘れていた、まずは食事だ」
よく見るとその手元には箸が握られ、せかすように机を一定のリズムで叩いている。
「なるほど、食事の方が重要なわけだ」
つむぐは可笑しそうに笑うと、足早にキッチンへと向かった。
「違う、訓練のためだ。腹が減っていては訓練ができん。それに食事は生活の基本だ」
「ああ、だろうな」
つむぐはコルトへと微笑むと、手早く料理を始める。
「しかしコルトも腹が減るんだな」
「別に必ずしも必要というわけでもないんだが、私の場合は癖のようなものだ。まあ、ただ単に私が食事をするのが好きという理由でもある」
コルトは目の前に置かれた山盛のごはんを頬張ると、嬉しそうに笑みを浮かべた。
「味噌汁と焼き魚が焼きあがる前に、食い終わるなよ」
つむぐは切り終わったお新香を机の上に置きながら、幸せそうに食事をするコルトの姿を優しい顔で見つめてた。
二人は食事を済ませると、少し話をしながら外を散策していた。
「それで、訓練っていうけど、具体的には僕は何をすればいいんだ」
「そうだな。まずは魔法使いとしての基本としては、魔道具である私の扱いに慣れて貰う必要がある」
「ああ、なるほど。それで魔道具って?」
つむぐはそもそも基本的なことがわからないといった様子で、コルトに聞き返した。
「魔道具というのは、魔法使いが使う道具のことだ。分かり易く例えると、君達がよく想像する魔法使いの持っている杖もそれにあたる。まあ、他にも薬品などがあるが、それらを総称してそう呼ぶんだ」
「へえ、そうなのか。なあ、もしかして空も飛べたりするのか」
つむぐはコルトの話の意味よりも、何ができるのかに興味があるようで、瞳を子供のように爛々と輝かせている。
「ああ、可能だ」
「マジで。うわっ、すごい飛びたい」
「飛ぶのは後だ。いきなりそんなことをすれば、それこそ真っ逆さまになって生卵のように潰れるぞ」
コルトは呆れ気味に言葉を返すと、話を続けた。
「とりあえずだ、つむぐ。どこか人気のない場所に案内をしてくれ」
「ああ、それだったら風の森がいいよ。祭りにも使われるぐらい馬鹿でかい公園でさ、奥に行けば人目にもつきにくい。でも人目につかないって言うんなら、家でもいいんじゃないのか」
「可能性は低いが、力が暴走すれば大変なことになる」
つむぐはその言葉に冗談と返そうともしたが、そのコルトの顔には冗談の二文字はなく「ああ……」と数回小刻みに頷くと、つむぐはコルトを連れて風の森へと足を向けた。
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