第17夜

 期末試験の結果は、さんざんなものだった。

 夏休みを前にしてだいたいどの学生も経験するものだろうが、極楽の前の地獄、幸福の前の不幸せといった具合に、良いことの前には悪いこともあるもので。無論つむぐもこの例に漏れず、ほぼ不眠不休での一夜漬けを実行して期末試験に挑んだにも関わらず、結果はさんざんなものになるだろうと自覚できる程にひどいものだった。

 コルトに魔法使いになると言ったがいいものの、特段に何かができる状態でもなく。コルトに愚痴を言われながらもつむぐはこの日、何とか夏休み二日目を迎えることができていた。

 その日の朝、つむぐを起こしたのはコルトだった。

 不眠不休での一夜漬けを実行した副作用か、つむぐは夏休みの初日をほぼ一日ベッドで寝て過ごす結果となってしまっていた。

「起きろ」

 そんなつむぐを起こそうと、コルトは寝入っているつむぐに声をかけていた。しかしつむぐはその声に反応を示すことはなく、気持ちよさそうに寝息をたてながら寝続けている。

「おい、つむぐ」

 コルトは再度声をかけたが、その反応がないことを確認すると右手を前に静かに出すとその手に一瞬光が凝縮し、その手に一丁の拳銃が出現した。

 コルトは無言のまま撃鉄を起こすと、引き金に指をかけた。

「さっさと、起きろ!」

 次の瞬間、コルトは何のためらいもなく引き金を引く。部屋中にまるで爆竹のような単調的な爆音響き、その銃身から白い煙がゆっくりと立ち上る。

「ぐはっ、ああ……」

 つむぐは爆音が鳴るのとほぼ同時に体をくの字に曲げると、悲鳴とも嗚咽とも言えるような悶絶した声を上げて体を痙攣させた。

「コルト、おまえって奴は。僕を殺す気か」

 やがてつむぐは腹を押さえながら慎重に体を起こすと、コルトを睨み付けた。

「喚くな、空砲だ。それに私はちゃんと起きろと警告したぞ」

「人を起こすことを警告とは言わない。ましてや銃をぶっぱなす奴なんていない」

 つむぐは深呼吸をすると、その肺に溜まった空気を吐き出した。

「次からは普通に起こせ」

「私の普通でか」

「世間一般の普通でだ」

 つむぐはいたって真面目そうに話しているコルトを横目に、深く項垂れた。

「つむぐ、期末試験ってやつは終わったのだろ。なら、今日からは訓練に移るぞ」

「訓練って、魔法使いの?」

 コルトは頷いて見せると「早くしろ」と言い残し、そそくさと部屋を出て行く。

 つむぐはそんなコルトの後ろ姿を眺めながら、自然と溜息をついた。

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