第16夜

 つむぐはコルトのその言葉にしばらく沈黙を返すと、差し出された手を見つめる瞳を、そっと目の前の少女の顔へと移した。そこには、緊張した面持ちで静かに答えを待つ真剣な眼差しがある。つむぐはその眼差しをじっと見つめ返すと「魔法使いか……」とその言葉を噛み締めるように呟いた。

 そして、つむぐはコルトに頷いて見せると微笑んだ。

「わかった。信じられないような話だけど、僕は君を信じるよ」

そう言ってコルト差し出した手を固く握り返した。

「ああ、もちろんだ。これからよろしく頼む」

 コルトはその手を固く握り返しながら、嬉しそうに微笑むと幸せそうに頬を緩める。つむぐはコルトのその顔に一瞬見とれるのだが、コルトはそれに気が付いてはいなかった。


 つむぐとコルトが二人でお互いの話を追える頃には、もう日も高くなっていた。

「コルト。一応念のために確認をするけど、君は所謂拳銃の精霊みたいなもので、そして僕は魔法使いとしてコルトを使いこなさなければならないと」

「そうだな。まあ、おおまかに言えばそんなところだ」

 コルトはつむぐに頷くと、疲れた様子で背伸びをした。

「なるほどね。何か不思議な感じだけど、まあ納得はしたよ」

 つむぐは頭を整理しながら、未だに現実感のない話に小首を傾げた。

「なんだ、まだ信じられないのか」

 そんなつむぐの態度にコルトが言葉を投げかける。

「そりゃ、いきなり全部を受け入れろって言っても無理があるだろ。僕はほんの少し前までは普通の高校生で、普通の日常を過ごしていたんだからさ」

「まあ、いいさ。君はどうしたってこれから魔法使いの道を転がり落ちていくんだから、そのうち否が応でも実感する」

 コルトはそう言うと、椅子から立ち上がった。

「さてと、私はもう疲れたから少し寝るよ。ああそれと、私のことは肌身離さずに持ち歩いてほしい」

 コルトそう言い残すと、そのまま光の粒子になると消えていった。

「おおっ、確かにこれは魔法っぽいな」

 光の粒子が手元に収束し一丁の拳銃となるさまをつむぐは見つめながら、拳銃の角度を変えながらまじまじと見つめる。

『そう振り回すな気持ちが悪い。それと、そう執拗に見られても困るんだが』

「ああ、悪い。それにしても、そのままでも喋れたのか」

 つむぐは自分の耳元で直に喋られているような不思議な感覚を味わいながら、手元のコルトへと話しかけた。

『ああ、もちろんだ。ちなみにこの状態での私の声は君にしか聞こえていない。それとわざわざ口に出さなくても、心のなかで話せば会話ができる』

 つむぐはそれを聞くと心のなかで念じるように『こんな感じか?』と心の声を出した。

『まだ多少ぎこちないが、それでいい。状況によって使い分けろ。では私は寝るよ、あと一応言っておくが私の睡眠の邪魔だけはするな』

「了解。まあ、僕ももう一眠りするつもりだけど」

 つむぐはそう言って、もう何も言わないコルトを脇へと置くと自身もベッドのなかへと潜り込んだ。

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