第14夜

 水道の蛇口を捻り、水を勢いよく出すと、その水に両手を差し込んだ。しばらくは水の冷たさを感じながら、つむぐはやがて顔を洗う。寝汗をかいて気持ちの悪かった感覚がすっきりとしたものになると、つむぐは脇に掛けたタオルで顔を拭き目の前の鏡を見つめた。

 しかしつむぐはその鏡を見ると、そのままの姿勢で目を凝らす。

「やあ」

 その鏡のなか、つむぐの背中に見知らぬ少女が小さく笑うと声をかけてきたのだ。

「こん……ばんは?」

 つむぐは突然の出来事に間抜けな声を出すと、反射的に返事を返していた。

 その少女は不敵な笑みを返すと、鏡越しにつむぐの姿を見つめ返した。

 つむぐも少女の姿を見つめ返すと、その姿を観察していく。まだ幼さを残す目鼻立ちの整った顔に、細い眉と強気に吊り上がった銀色の瞳、腰丈まで伸びる絹糸のような銀色の長髪は暗闇のなかでもまるで輝いているようだった。背丈からして子供にも思える容姿だが、その表情は凛々しく妙に大人びて見える。

「間抜けそうな顔をして、おまえは他に私に言うことはないのか?」

 少女は何も言わないつむぐに背中越しに声をかける。

 しかしつむぐは次の瞬間、少女の予測しない行動を起こした。

 つむぐは無言のまま、ただ両手を広げるとそのまま後ろへと倒れたのだ。

「ふえ、なああ!」

 つむぐの背中に立つであろう少女は間抜けな声を上げると、次に驚いた声を上げて迫りくるつむぐの背中に押されながら一緒に床へと倒れる。

 激しい物音と、倒れた衝撃で棚の物が落ちていく様子を眺めながら、何の受け身もとらずに後頭部を床に激突させたつむぐは、やがて眠るように意識を失った。

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