第11夜

 やがてつむぐは昨晩の土手へと着くが、そこには平和とも言えるような穏やかな風景が広がっているだけで、思った通りおかしな所は感じられない。ゆっくりとした時間のなかで釣り糸を垂らす人や、のんびりと散歩を楽しむ人々の姿が見えるだけだった。

『何もなかった』そう誰かに言われているような感覚をつむぐは感じていた。間違いだったのならと考えもしたが、つむぐはそれを一笑した。

「いったい、何だったんだか」

つむぐはそう言いながら土手の上から、辺りの景色を注意深く見回した。

 すると、つむぐは一瞬その視界に入ったものに驚くとすぐに首を戻した。それは土手を歩く人のなかに、一瞬角の生えたような生き物がいたからだった。しかしそれは見間違いとも思えるぐらいのもので、つむぐが目をこすりもう一度見直すともうその姿はなかった。

 自分は今どこにいるのだろうか。つむぐの頭には疑問の言葉が浮かんでいた。まるで自分はどこか別の似たような世界に入り込んでいるのではないか。もしかしたら、頭がおかしくなっているのだろうかと、つむぐは自身のその思考に身を震わせた。

 何事もない川沿いの土手の風景、人の姿に、車やバイクの音、頬に当たる風と草木の匂い。それら全てがどこか希薄で、何か嘘をついているような、そんなことをつむぐは考えてしまっていた。

 そして慌てた様子で、つむぐは自身の背後と辺りを見回した。どこもおかしくはない、つむぐはそう思い込んでいた。

 しかし、その視線はある一点で止まる。

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