第07夜

「話はこれでお終いだ」

「まったく聞くんじゃなかったよ。聞いた分だけ、祭りの楽しみが半減した気分だ」

 少し不機嫌そうな顔をすると、つむぐは溜息をしながら頭を掻いた。

「ははっ、悪い悪い。そう不機嫌な顔をするなよ、あくまでも昔話さ。今じゃそんな風習なんか耳にしないだろ。異界の門なんてものもないし、あったのは悲しい出来事とその事実、それだけだって」

 太一は一笑してつむぐに謝ると「そろそろ、行くかな」と、人々の賑わう矢倉の方へと歩き出した。

「やれやれ、まったく」

 つむぐはどうも納得がいかない様子で太一の後に続きながら、他の祭りでは見かけることのない黒一色で装飾された小高い矢倉を眺めながら「胸糞悪い……」と呟いた。


 つむぐと太一が祭りの会場を後にしたのは、花火が打ち上げられ人もまばらとなった頃だった。

 公園を後にした二人は帰路へつくと、道の途中で別れを告げた。

 「じゃあ、また」

 つむぐは太一にそう言うと、太一とは反対の道へと歩き出していた。辺りは暗く、人気のない道を街灯が薄暗く照らしている。つむぐは左腕の時計を確認すると、時刻は十時を回っていた。

 つむぐは道を歩きながら、途中の自販機で缶コーヒーと買うと、それをちびちびと飲みながら歩いている。そして近くを流れる川沿いの土手に差し掛かったところで、つむぐは足を止めた。

 もう家までは目と鼻の距離だというのに、その視線は川を挟んだ反対側の土手を見つめている。

「何だ、あれ?」

 つむぐは不思議そうに呟くと、目を凝らした。

 そこにはまるで万華鏡のような、合わせ鏡のようにぶれて重なった風景があったのだ。

 先程に飲んでしまった缶ビールの影響なのだろうかと思いながら、つむぐは目を擦った。それでもその風景は消えることなく、陽炎のようにゆらゆらと怪しげに世界を歪めながら確かにそこに見えているのだ。

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