第06夜
「まあ、とりあえず話を戻すとだな。文献なんかを漁った結果、この祭は慰霊の意味合いがとても強いことが分かったんだ」
「慰霊ってことは、何かを慰めているってことか」
「ああ、霊だよ。人柱にされた人間のな」
「人柱って、それって冗談だろ」
今まで何気なく話を聞いては言葉を挟んでいたつむぐが、驚いたというよりは胸糞悪いといった様子で反応した。
「本当の話だよ。いったろ特別な方の話をしてやるって、止めとくか?」
「ああ、いや。どのみちここで話を聞くのを止めても気になるだけだからな。博識な太一さんの話を聞くことにするよ」
つむぐは冗談交じりに言葉に少し嫌味を含めるが、あまり顔が笑ってはいない。
「そうか。それじゃ続きを話すとな、その人柱っていうのは世間一般で認識されているような天災や病とか、所謂神の怒りを鎮めるものとはまた別ものでさ。この町での人柱は、なんでも異界の門を閉じる為の生贄だったらしいんだよ」
「異界? それって地獄とか煉獄とか、そういった類のやつか」
「いや、それとは少し違うらしいがな。古文書によるとこの世界の向こう側の世界とか、そんなふうに記してあったな。たしか〈写し世〉って古文書には書いてあったよ」
「写し世か……。なんか鏡写しみたいな感じだな」
つむぐは何気なく思ったことを口にする。
「それも一理あるかもな。昔から鏡っていうのは霊界と繋がっているとかいうし、もしかしたらそこらへんから、この話の元があるのかもな」
「まあ、とにかく。この土地はその門が開き易い場所なんだそうだ。そこで当時の人間が考えたのが、人柱を立てて門が開かないように封印するっていうわけだ」
太一はそこで右手の人差指を立てた。
「そこでこの祭の名前を考えてみろよ」
「鍵祭りか」
「そう、繋がるだろ。異界の門の鍵、その鍵をかける為の人柱。その人柱とされた人達への慰霊と償い。これがこの祭りの本当の顔ってわけさ」
太一はそれに「信じるか信じないかは、君次第」なんて定番の言葉を付け足すと、手に持った缶ビールを一気に飲み干して握りつぶした。
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