第22話 慈悲は途切れなく常であり、壮大である

過去


 引き揚げられたアイマンは、仰向けになりながら、未だ止む気配のない雨を全身に浴びて厚い雲に覆われた灰色の空を見つめていた。


 濁流に揉まれた全身は疲れ果て、口の中は泥水のひどい味がした。

「義兄さん、姉さん」

 うわごとを聞いた兵士は憐れむような眼でアイマンの肩に手を置いた。それは少しでもこの少年の慰めになれば良いと思っての行動だった。


 空が一瞬だけ鋭く光った。続いて重い雷鳴が一帯に響く。その場の全員は反射的に身を強張らせた。

 再び空が輝く。その時、アイマンは見た。厚い灰色の雲の更に上を蠢く巨大な影を。そして聞いた。雷鳴とはまた異なった甲高く低く変化する雲を切り裂くがごときその咆哮を、確かに聞いたのだ。


 それは常に不規則に形を変え、時には命すら奪うプラズマの海を苦も無く悠然と泳いだ。ここは自分の領土なのだ。誰に構うものでもない。すべてがひれ伏す。そんな風にそれは空を巡った。

 それの咆哮は空全体に響かんばかりに轟いた。それから少しして、雷が止んだ。続いて雨が止み、雲が割れ、光が差し、洪水はゆっくりとその水位を下げていった。


 それに遥か下方の地上は見えていたのだろうか。それは誰にもわからない。もしかしたらそれは只の偶然なのかもしれない。だが、その時に起こった現象は偶然というにはあまりにも奇妙だったのだ


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