第15話 センター アクシズ リロック
時を同じくして、ハビエルたちの部隊は輸送船に乗り込み、激しい銃撃戦を繰り広げていた。
管理局の特殊部隊とゲイリーの私兵。互いがコンテナの陰に隠れ、駆けまわり、撃ち合い続ける。
その間を縫うようにして船内へと通じる扉を目指し走る二人の人影があった。人影が扉にたどり着く。黒ずくめの戦闘服を纏った男が扉を押し開けた。
「そこのお前ら、何をしている!」船内に侵入しようとしていた二人を、ライフルを構えたラフな格好の男が見咎める。男は慎重に歩みを進める。その指は引き金にかけられており、いつでも撃つことができる様子だ。
「お前ら⁉ サツだなっ…」言い終わる間もなく男の後頭部が砕けた。
「おみごと」扉を開いた大男のグリムが、男を射殺したハビエルに口笛を吹く。
ハビエルは警戒を怠らず、後ろ歩きのような状態で扉をくぐった。そして、グリムの前に出る。彼が先行する役だ。
二人は船内に巡る長い廊下を予断なく進む。道中の部屋を調べるが、目標の人物の姿はない。最後の部屋を調べ終わる。ゲイリーがいるとすればこの階層よりも下なのだろう。ハビエルはそう考えながら下層に続く階段を見た。
階段から足音が聞こえた。音の数からして一人のようだ。足音の主が階段を上がってくる。外は戦闘中にも関わらず口笛を吹いているようだ。なんと緊張感のないことだろうか。
階段を上がる男の姿が見えた。肩にライフルをさげており、船内に侵入者がいるかもしれないなどまったく考えていないらしい。
階段に向いていた視線が上がる。その瞬間、男はぎょっとした。階段の最上段にこちらに拳銃を向けている男が経っていたためだ。男の両手は自然と天を指した。
「お前のボスはどこにいる」ハビエルは冷たい声で質問する。その両手に握られたシルバーの自動拳銃が鈍く光を反射する。
「誰が言うかよ」男は強気な言葉を発する。その手はわずかに震えていた。ハビエルは男の首を片腕で圧迫し、そのまま背中を壁に叩きつけた。
「いいか、今すぐお前の脳天に穴開けて下に降りてもいいんだ。だが、我々も法執行機関としてのプライドがある。なるべくなら命を助けてやろうとしているんだ」ハビエルの淡々とした口調に、男の虚勢は徐々に剝がれていく。
「つまらない意地を張って外で転がっている仲間のようになるか、それともこれが終わった後、刑務所生活を少しでも短くするか、選べ」
男は答えなければ殺されると本能で理解した。追い詰められ、目の前に差し出された選択肢のどちらがましか、僅かに考え込んだ。そして、意を決したのか口を開く。
「ボスは下の階、この船の貨物室にいる」男は絞り出すように言う。ハビエルは嘘ではないかという意味を込め、更に男の首を圧迫する。
「本当だ! やめてくれ」男は苦悶に似た声を出す。ハビエルは隣にいるグリムと顔を見合わせた。言葉は交わさない。だが互いの目が男の言葉を信じるかについて議論を交わしている。一瞬の無言の会議の結果、男の言葉を信じることにした。
「ありがとう」ハビエルは役目を終えた男のこめかみを銃の台尻で殴った。気絶し倒れる男を部屋に隠し、貨物室に向かう為、階段を下りた。下りた先の廊下は左右に分かれている。思わず舌打ちした。先ほどの男に貨物室がどこにあるのかを聞き忘れたのを思い出したからだ。
グリムが左右の道で分かれての捜索を提案する。戦力の分散はリスクがあるが、共に行動していて結局目標に逃げられてはかなわないと思い、ハビエルはその提案を受け入れた。そして進むことにしたのは右の道だ。
船の心臓が脈動する音が、床を揺らし薄暗い廊下を支配する。
ハビエルは唾をのみ込んだ。不意の接敵に警戒しながら、船内を進む。敵の気配は今のところない。しかし、進むたびに大きくなっていく振動に、まるで巨大な海獣の腹の奥底に進んでいるかのような不安感がハビエルを襲う。
しばらく廊下を直進し左折する。目の前に男がいた。運の悪いことに、二人は鉢合わせしたのだ。男は腰のホルスターから拳銃を引き抜いた。だが、既に拳銃を構えているハビエルの方が有利だ。
ハビエルの銃の構え方は奇妙なものだった。姿勢は相手に対して右足を後方に下げ、体の左側を盾にする。胸の中心に両手首を貼り付け、両手で拳銃を持つ、そして自身の視線は敵を向き、体に添わせた拳銃は敵に狙いをつける。そのまま発砲。拳銃の反動はしっかりと肘で吸収され、反動はゼロに等しくなる。この構え方は咄嗟の至近距離での戦闘に効果を発揮するのだ。
敵が倒れる。しかし油断することはない。姿勢が猫背気味に変わる。拳銃を握る手はかわらずに右肘を顎のあたりまで上げ、銃は顔のやや下の位置、上半身を振り回すようにして周囲を索敵する。
これにより新たな敵が現れても素早く射撃を行える。
他の敵が集まってくる前に少しでも先に進む。通路を進むたびに新たな敵が姿を現す。そのたびにハビエルは拳銃を構えながら、訓練を思い出す。警戒のために顔のやや下に維持していた拳銃を目のすぐ前にくるようにする。そして拳銃の照準器は左目で狙いをつける。この時に両目は開いたままだ。
今までのやり方とあまりにも異なり混乱することもあったが、慣れてしまえばこれほど心強いものはなかった。
やや開けた通路にでた。前方の奥まった位置の通路に目的の貨物室を示すプレートがかかっている。目的地はもうすぐだ。
物陰から敵が飛び出す。その手にはライフルが握られており、侵入者を八つ裂きにしてやろうと、こちらを狙っている。
ハビエルは、拳銃を顔の前に構えた。二、三度引き金を引き、敵が倒れる。右の通路から敵が出てきた。素早くそちらを向き引き金を引き、敵は壁に叩きつけられる。ハビエルの位置に近い左の通路からも敵がくる。素早く腕を縮こませ、拳銃を体に添わせて発砲する。敵は武器を取り出す暇もなく倒れる。
弾丸が切れた。マガジンを外し新しいものを装填して、今まさにスライドを引こうとすると右の通路から敵がタックルしてくる。間一髪それを躱すと、改めてスライドを引き、薬室に弾丸を送り込み、タックルしてきた敵の背中に数発お見舞いする。そして、襲撃が止んだ。
警戒を怠らずに貨物室への通路を進む。だがその陰から身を低くした敵が腹にタックルしてきた。ハビエルは拳銃をしっかりと握ったまま、左膝と両肘で相手の腹と背中を力一杯攻撃する。相手の力がわずかに緩み、その隙を見逃さず頭に弾丸を撃ち込んだ。
先ほどにも増して周囲を警戒する。だが今度こそ本当に終わりだ。
貨物室への扉を開けた。金属製の扉は嫌でも金属同士の擦れる音を奏でる。扉が人一人すり抜けられるほどまで開くと、ハビエルは貨物室へと足を踏み入れた。所々に照明がぶら下がっており、貨物室を照らしている。その中心には場違いなビーチチェアが置かれており、そこでは腹の出た太った男がくつろいでいた。
ハビエルは周囲を警戒しながら男に近づいた。
「ゲイリーだな。帝国貿易調査管理局だ。お前を逮捕する」厳しい口調とは裏腹に、その心臓は激しく高鳴っていた。
ゲイリーは銃を突き付けられながらもにやにやと笑い、下品な金歯をその口から覗かせている。
「はじめまして、ハビエル捜査官」
「なぜ名前を?」
ゲイリーは貨物室の入口を指した。ハビエルが視線をわずかにそちらにやる。
「グリム」ちょうど入口の扉を開けてグリムが入ってくるところだった。「よかった。こいつを連れていく援護してくれ…」グリムは拳銃をホルスターから抜くと、ハビエルに向けた。
「こんなことになって残念だ。本当だぜ?」
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