論破と威圧で断罪なんてなくしてやるわ〜この後すぐに断罪? 別に口が悪ければ別に準備なんて必要ありません〜

秋色mai

論破と威圧で断罪なんてなくしてやるわ〜この後すぐに断罪? 別に口が悪ければ準備なんて必要ありません〜

『危ないっ!』


 短い人生だった。

 ボールを追って道路に飛び出した子供をかばって享年17歳。外見に引かれたらしく、告白されることはよくあったけれど、生涯、一度も友人はできませんでした。

 釣り目に毒舌、背の高さ、すべてにおいてキツイ印象に仕立て上げてくれる要素が揃っていた。

 唯一私と喋ってくれたのは、腐れ縁の幼馴染と親のみ。

 そんな私の趣味は、悪役令嬢系小説を読むことだった。同じくキツイ印象の人が、かっこよく活躍していて、誇らしかった。そう、読む分には。

 目を開けたまま寝ているような感覚のまま、私が見たのは、小説の中に出てきそうな王子とヒロインが、私?を断罪する姿だった。

 これは未来なのだと、私はなぜか理解していた。


「お嬢様?」

「ねえ、ミレイヤ。わたくし、これから断罪されるわ」

「はい?」


 ルシェリア・スカーレット。公爵家の長女で、この国の王位継承権第一位の王子の婚約者。学園での立ち位置はまるで悪い令嬢のよう。

 ちなみに今私のコルセットを締めているメイドはミレイヤ。私の専属メイド。


 私は、今日、短い前世の記憶と共に、この後すぐに断罪される未来を予知しました。


「殿下が、私よりもあの小娘の事を愛しているのを知っているわよね?」

「ええ、まあ最近骨抜きにされていますね。だからお嬢様を断罪するんですか?」

「そうよ。それに、私、馬鹿で無能な王子が旦那様だなんて絶対嫌だわ」

「あの王子、どこまで馬鹿なんでしょうね。それで、いつかそう仰るだろうとは思っていましたが、まさかなにかやらかすおつもりで?」


「当たり前でしょ」


 どうやら私はどっかの世界の悪役令嬢に転生していたらしい。転生からの断罪直前に前世を思い出して未来予知って...。

 はぁ。最悪だ。性格があまり変わらないせいか混乱がないから冷静に状況が理解できるけれど。

 こうなったら、前世では出来なかった友達作り、前世と同じレベルの高度で文化的で、悠々自適な生活を手に入れてやる。

 そのためには、とっとと、あの骨抜きイカ王子を盛大に、準備を整えなければ。


「ねえ、ミレイヤ。私、今日は赤くて豪華なドレスがいいわ」

「え? お嬢様には、予定通りの青の方が似合いますよ」

「でも、偉そうじゃないでしょ? 普段着じゃないんだから」


 ルシェリア・スカーレットは、ぼーっとさえしていれば、とても儚げな美人だ。

 白銀の髪に、グレーの瞳。崩れそうなほど細い体。

 しかし、本当は目が悪いせいでいつでも睨んでいるような表情、口の悪さ、そして貴族らしい高慢な態度なのだ。


「まあ、いいですけど……。それで、本日のご予定は?」


 さっき、予知したときにもうプランは立ててある。


「この後、ドレスに着替えて、ばっちり化粧をして、それから、ティータイムね」

「本日は王家主催の舞踏会ですよ。学園の生徒全員が参加者の」

「無論、ティータイムの後に行くわ」

「遅れていくだなんて。パートナーがいなくてただでさえ目立つのに、まだ目立つおつもりですか?」


「あら? ヒーローやヒロイン、遅れてやってくるものなのよ」


 私は、盛大にぶちのめす前の勝利のティータイムでも優雅にするとしましょう。

 この私が、あの脳内お花畑自称ヒロインや骨抜きイカ王子共に負けるなんてこと、ありえないもの。

 ぶちのめす準備すら必要ないわ。


「はぁ。それで、殿下とあのアホ娘に仕返しをした後、どうするんですか?」


「状況整理よ。あのお花畑女が転入してきてから何があった?」

「そうですね。まずはお嬢様の幼馴染でもあるウッド様に突撃し、ぶつかり、知り合いとなりました。しかし、ウッド様は馬鹿ではありませんので、あんな女に引っかかることはなく、あくまで顔見知り程度にしかなれませんでした」


 私はあの時ときから違和感を感じていたわね。そういえば。


「ウッド様が無理だと悟った瞬間、次は王子に乗り換えました。ウッド様は、同じく公爵家ですが、三男。そのため婚約者様がいらっしゃらないので問題にはなりませんでしたが、王子にはお嬢様がいたため、問題になりました」


 そして彼女にヘイトが溜まり、私の取り巻きは十数人から三十人程度に増えたわ。


「しかし、もうその時には王子はフォーリンラブ野郎になっていたので、王子権限で騒動をもみ消しました。お嬢様は、お家のめいにより、あの女への注意や王子へ配慮などもなさっていましたが、今度は勝手に向こうがいじめと騒ぎ立てました。現在はあの女が転入してきて半年後の舞踏会の日です」

「その通り。流石は私のメイドね。状況もしっかり把握できているし、私が飽きないように皮肉を入れてくれて最高よ」


 まあ、つまりは、私に非はない。

 ちなみにちょうどドレスを着終わり、今は髪を結ってもらっている。


「ああ、そうだ。とびきり儚げにお願いね」

「かしこまりました」


 どうやら、この一言で大体の私の計画について理解してくれたようだ。


「舞踏会に遅れていって、王子が不貞を働いているのをアピール。そのまま、断罪を論破しつつも、墓穴を掘るように誘導し、向こうを断罪してやるわ!」

「それで?」

「その後私は、儚げな傷心令嬢っぽくして好き勝手するつ・も・り。幸いにも我が家には妹が三人もいるわ。私の予想では、あのイカ野郎がダメになったとして、有力候補は第三王子になると思うの。そいつとうまーくくっつくように誘導すればお父様も文句は言えないでしょう?」


 まあ、二つ下の三女が一番くっつけやすいかしら。同じ学年だし。学園ラブロマンスっぽくして、心理術を活用すれば、思春期の男子を落とすのなんて容易いわね。

 リップをつけるのでその悪い笑みをしている口を閉じてくださいとミレイヤ。


「なるほど。それで、好き勝手とは?」

「まずは、卒業後司書になるわ。冒険者というのも一瞬考えたけれど、あまりにも現実的じゃなかったから。大好きな本に囲まれた生活よ」


 お茶を持って来て頂戴、というと、部屋の外にいた執事にミレイヤがお茶を持ってくるように言う。


「司書になる試験はどうなさるので?」

「私は傷心令嬢よ? 学園を休んでその分を試験勉強に使わせていただくわ。安心して、ミレイヤにも私の新生活についてきてもらうから」

「そんなことはわかってますよ」

「それから、司書の仕事をしつつ、同じ本の好きなご令嬢とお友達になるの」


 眼鏡を使えば、睨んだような顔にならないわけだもの。

 今までは王子の婚約者として美貌を見せつけるために眼鏡なんてかけさせてもらえなかったけれど。


「ズズッ。ああ、美味しい」

「断罪し返すための準備はしなくてよろしいのですか?」

「その場で言い返してやるほうが楽しいじゃない。それに、のどを潤すことが唯一の準備なのよ」


 左様ですか、とあきれたようにミレイヤが言う。

 さて、時は来た。いざ、舞踏会会場へ。

 楽しい楽しい裁きの時間の始まりね。


 コツコツとヒールを鳴らしながら会場を歩く。

 皆、目は私に釘付けだ。

 自ら証言者になってくれてありがとう、皆様。


「はっ! 遅れてくるとは、俺の婚約者に相応しくないな」

「申し訳ありません、誰も迎えに来てくださらなかったので」

「当たり前だろう。誰がお前のような悪女なぞ……」


 あー、べらべらうるさいわね。そのよく回る割に中身のない言葉が出てくる口を縫い付けてやりたいわ。やかましくてしょうがない。

 さっさと本題に入りなさいよね。この能無しが。


「お前はっ! 愛おしきベラドンナをいじめ、傷付けた! そんな女は俺に相応しくない! よって、この婚約を破棄し、俺はベラドンナと婚約を結ぶ!」

「はぁ」


 予想通りだけれど、なーんてお馬鹿さんなのかしら、この骨抜きイカ王子。

 ああ、フォーリンラブ野郎だったかしら? ミレイヤに言わせれば。

 扇子をバッと閉じ、顎を上げ、思いっきり正面から睨んでやった。


「殿下。笑止千万ですわ」

「は?」

「笑わせないでくださる? まず、私はベラドンナ様をいじめてなんてございません」


 さーて、断罪仕返しのお時間よ。私を断罪しようとしたことを後悔させてあげましょう。

 

「なんだと! 今更罪を否定するとは!」

「私……、ルシェリア様にドレスを破られて……」


 あー、はいはい。泣き真似下手すぎ。やるならもっとうまくやりなさいよ。

 私はドレスなんて破ってないし。まあ、ちょうどいい。誘導する前にもう墓穴を掘ってくれたのだから。

 私はひそかにほくそ笑んだ。


「いつの事で、どこでですの? ベラドンナ様」

「キャッ」


 何いじめられてる感出してんだか。ムカつくわね。


「いつの事で、どこでですの?」

「……昨日学園で。わかってるくせに」

「何時ごろ?」

「……ショックの余り覚えておりません」


 チッ。

 イカ野郎の胸で泣き真似してる暇があるんだったら、そこまで細かく考えなさいよ。

 証拠の提示が面倒じゃない。この脳内花畑自称ヒロインが。


「昨日は私、授業以外はお友達とテラスでお茶をしておりましたの。そんな時間はありませんわ」

「嘘よっ」

「じゃあ、時間を指定してくださる? ショックの余り覚えていないだなんて……まるで今ここで作ったような……」


 まあ、その通りなんでしょうけど。扇子を広げ、口元を隠す。にやけてるのがばれたら大変だわ。

 また扇子を勢いよく閉じ、傍観している人々の意識をこちらに集中させる。そして、スカートを翻しながら問う。


「果たして、倒れてもいないのにショックで記憶を失うなんてことがありえるのでしょうか?」


 一気に静けさがざわめきに変わる。

 そうだ、まるで自作自演のようじゃないかと。ええ、ええ。その通りですよ。


「私っ! 昨日倒れて……」

「じゃあ何故昨日、あんなにも元気そうに食堂で殿下と抱擁をなさっていたのかしら? そしてそのまま接吻までしていたわね。ああ、勿論口同士で」

「それはっ!」


 さて、そろそろおさらばよ。グッバイ、馬鹿共。


「殿下が、既に私に対する心がないのはわかっていますわ……」


 か弱そうに眼を擦る。秘密兵器を使いながら。

 一滴の雫が私の頬を通る。


「ずっと……。そう、ベラドンナ様が我が学園に転入してきた時から」


 つまりはこいつ、婚約者がいたのに、浮気しました。私がいじめるとか以前の問題として、ということを証言者こと皆様に伝えながら。


「私は、婚約破棄を受け入れる心はできております……ですが、殿下の心移りに、冤罪、あんまりです。未来を担う国王が、このような行動をしてよいのでしょうか?」

「貴様っ無礼なっ!」

「ごきげんよう、皆様。そして、殿下とベラドンナ様、どうぞ馬鹿で軽薄同士末永くお幸せに」


 ふふふふふふ。

 最後に、こんなやつが国王でいいのかという不安を植え付けて退場してやった。

 これで、もう奴の継承権の剥奪は決まりね。実際長男というだけで、頭も軽くて、剣も魔法もからきしの浮気者で国王候補の資格すらなかったのだし。

 

「ふう、糞を相手にするのはやっぱり臭いしキモイし嫌ね」

「お嬢様、ハンカチを……。ああ、目薬だから必要ありませんでしたね。失礼しました」

「ねえ、ミレイヤ。それわざとかしら?」

「なんの事でしょう?」


 ここまで約十五分。タイムアタックとしては微妙ね。

 数日後、馬鹿王子が継承権を剥奪されたと聞いて、彼女は高笑いしたとさ。

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