第1章 日常

ミシア登場

ライルがいつもの時刻にいつものように宿酒場『甘いはちみつ亭』に入ると、いきなりミシアに出迎えられた――というより、席に着くのを阻まれた。


ミシア「ボクが!看板店長のミシア!です!」

タリア「きゃー!お姉さまー、きらきら~♪」

タニア「きゃー!おねえちゃーん、きらきら~♪」


ライル先生「…あ、うん。知ってるよ?」


ミシアは両足を肩幅くらいに開いてライルの目の前に立ち、拳を腰に当て、えっへんと薄い胸を張っている。

ミシアの右側ではタリアが、左側ではタニアが、片膝をついて両腕をミシアの方へ伸ばし、指を大きく開いてひらひらと手を振る。ミシア曰く「きらきら演出」だ。

ミシアは背が低いので10才くらいに見えるが、これでも成人しており、当人が言っている通り甘いはちみつ亭の店長であり、冒険者でもある。


ミシア「そしてこの2人が給仕の看板娘、タニアとタリア!です!」

ライル先生「…それも知ってるけど…」

ミシアは腕を両側にいるタニアとタリアに向ける。

タニアとタリアはミシアの3才下の妹で、双子のようにそっくりである。

2人ともお揃いでピンク色の可愛らしい給仕服を着ているが、タニアは半袖、タリアは長袖だ。

髪のサイドテールもタニアは左側、タリアは右側と対称的なので、そんな2人がミシアの両脇にいるとポーズがばっちり決まっていた。


ミシア「そしてご存知、料理の看板娘ライラ!です!」

ミシアは両腕を、カウンター席の内側の厨房にいるライラに向けた。

ライラは黒い給仕服に白いエプロンをつけ、トレードマークであるおたまを腰からぶら下げ、おなべのフタを背中に背負っている。

ライラ「まぁまぁ~。いらっしゃいませ~ライル先生~」

ライル先生「こんにちは、ライラさん」


ライルは、甘いはちみつ亭があるハルワルド村の、学校の先生だ。

ミシアやタリアなど、ハルワルド村で育った子供たちは皆、ライルから字の書き方や計算のやり方等を教わっていた。

ライルは甘いはちみつ亭の常連で(村の大人達は全員常連のようなものだが)、いつものように甘いはちみつ亭に入ったところで、ミシアのきらきら演出に出迎えられたのだった。

ミシアのきらきら演出はライルも何回か見たことがあるが、ライルに向けて行われたのは初めてだ。


ライル先生「どうしたんだい、急に?」

ミシア「ちょっとボクたちにも思うところがあってね…」

ライル先生「…?…とりあえず、席に座ってもいいかな?」

ミシア「あ、うん…どうぞ」

ライルはいつものように、入り口を入った右側にあるカウンター席の、一番奥の目立たない場所に座った。薄暗い隅っこなので良い席とは言えないが、ライルの指定席として扱われている場所だ。

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