彼女と初めての旅行
西沢哲也
真夜中のひと時
旅行の始まりはいつだって突然だ。
~~
若葉のボランティアで行っている俺の実家と若葉の家の近くにあるデイケアセンターの人たちに俺と若葉が付き合っているという話と瞬く間に話は広がり、『今度色々な疲れを癒してきなさんな』という具合に、ケアセンターの利用者の知り合いが経営しているという旅館の宿泊券をプレゼントしてもらった。いえいえ悪いですよ~ といったら9月だからちょっと客足も鈍るし、平日にきてくれるなら助かるわってくらいなノリでよかったらしい。
俺は多くの人に彼女の存在がばれてしまったことに対して恥ずかしいと思いを抱きつつも、そんな機会をくれた若葉の人脈の強さに感心するのであった。
箱根に行くのに俺は東京で一人暮らしをしているものだから新宿から行くが、彼女は同じ大学に行くのにも実家から通いで行っているため、当日は海老名駅で待ち合わせして特急で行こうかという話に落ち着いた。
新宿から急行で海老名に向かう道中は平日のラッシュ時といえど、逆方面の電車であるためか空席が目立ち対向の電車の混雑具合を見るたびになんだか優雅な気分に浸れる。
未来このような人たちの一人になるんだろうなという不安はあるが、今は同じ地点に向かっている若葉との旅行を全力で楽しもう! そんな気分であった。
~~
海老名駅を降りて、若葉との待ち合わせ場所に向かおうとホームから階段をのぼり、改札に向かうともう既に改札内で待っている若葉がおーいと手を振って、そのままこちらへダッシュしてポフッと抱き着いた。オフショルにスカート姿の若葉からかすかに香る甘い香りにくらくらしつつも、グイっと距離を置いて、
「おいっ、特急券発券するからまたホーム降りるぞ」
とクールぶるかのように話しかける。
「うーん、わったーのケチ。ぶ~」
ふてくされる若葉を尻目にすたすたと階段を下りた。
青い特急電車に乗って箱根湯本に到着し、お昼ごはんを食べたり、美術館に行ったりしていくうちに日も傾き始める。
何とか今日の旅館最寄りである桃源台までたどり着き、旅館にチェックインする。
俺はもう成人だし、若葉も親の許可は当然とれているので何もお咎めなく、むしろ温かい目で見られているようなそんな視線を感じた。若葉も何となくだが、そんな雰囲気を感じてなのかしおらしい表情を見せ、またそれもかわいいなと感じていた。
そのあとは温泉で今日の疲れを癒し、部屋で豪華な食事を食し、女将さんが「布団は一つでよろしいですか?」と聞くもんだから、「いやいや、二枚でお願いします!」と叫ぶと、あらあらといった具合に、布団を間も開けずに二枚引いてそれではと消えた。
顔を真っ赤に見つめあう俺と若葉はじゃあ寝ようかといった具合に布団に潜り込んで、電気を消したのであった。
~~数時間後~~
「ねえ、わったー? 起きてる?」
「うん…… まだ起きてるよ」
「明かり消していてもなんだか今日は眠れないの…… ちょっとお話しない?」
「明日は芦ノ湖の遊覧船乗ったり最後帰らないといけないんだからあんまり夜更かしできないぞ」
「いいじゃん…… たまにはさ……」
「…… そうだな。布団の中で話すのもなんだからこっそり抜け出そうか?」
「いいじゃん、なんか大学生っぽい」
「若葉だって大学生だろうよ……」
そんなやり取りをして、23時夜も更けて、街灯も消えた道を月明かりとスマホのライトを頼りに歩きだす。
芦ノ湖のほとりまでたどり着くと、夏を惜しむかのように秋風が吹き、風にあおられ水面が揺れていた。夜空を見上げると、夏の三角形がきらめいていた。
「うーん、気持ちいいね」
若葉がそうやって背伸びをすると歩いて帯が緩みかけた浴衣がはだけそうにも見えたが、彼女はそんなことを気にする様子もなく、そのへんのベンチに腰掛けた。
「ねえ、わったー? 今日はありがとうね。いろいろ立て込んでいる時期にくわえてインターンとかもあるだろうにさ」
「そんなことないよ。むしろ、若葉が変わらずみんなをつないでいたからこそ、今回の旅行が実現しただろうし、俺に駆け寄ってくれなかったらもう俺は若葉とこうやって話すことなんてなかったと思うしさ」
「そんな……私はわったーと一緒じゃなきゃやだ。ずっと寂しかったんだもん。」
若葉が不意に泣き出すものだから、俺はぎゅっと抱きしめる。彼女の髪から普段と違う旅行先のシャンプーの香りが強めに香ってきたが、徐々に普段の若葉の甘い香りが混じり始めてきて、彼女は少し落ち着きを取り戻してきたように思える。
「でもさ、隣にいないとき寂しいからって大学まで追いかけてきた私じゃあ重いよね……」
「そんなことないよ。どんなに変わるものがあっても、若葉は変わらず隣にいる。それだけで俺はうれしいし、もう君だけは失いたくないと思っているよ。」
「ありがとう…… これからもよろしくね?」
「あぁ……」
~~
『くしゅん』ふと、若葉がくしゃみをした。
「ああ、もう帰ろうか。もう、さすがに遅いもんね。それと浴衣もさ……」
「あっ…… もう~、わったーのえっち!」
はだけた浴衣に気が付いた若葉はあわてて、帯を結びなおそうとするが、うまくいかず、見かねた俺は来ていた薄着のコートを若葉に被せた。
すると慌てていた若葉も落ち着きを取り戻し、コートにうずくまりながら、一緒に宿へと戻っていく。夏の星たちは俺たちを名残惜しそうにまた一段と輝いていた。
真夜中のひと時、この旅行を俺らは一生忘れないだろう。
~~~~
このストーリーはもしかするともうすこし言い回しを直球にして、表現変えて書き直して、何編かに分けて描かれるかもですが、本編を書くかすらわからないので今はこれくらいにします。
彼女と初めての旅行 西沢哲也 @hazawanozawawa
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