人生の席

夜表 計

輪廻

 目を開ける。

 白い場所。そう表現するしかないこの場所で、どうして私は椅子に腰かけているのだろう。

 真横一列にどこまでも整然と並ぶ、無数の椅子。その椅子に座る私達。だが、私以外は眠っているのか目を瞑って微動だにしていない。まるで死んでいるかのようだった。

 白いローブに身を包んだ人物が目の前にいるのに気づく。驚きはしなかった。性別も年齢もわからないが、この人物はずっと私の目の前に居たように思う。

 白い人は抱えていた赤子をそっと私に手渡す。私は戸惑いながらも両手で優しく柔らかく受け取る。

 赤ん坊を抱くのは何十年ぶりだろうか。久しく忘れていた赤子の重み、そして温かさ。

 赤子があくびをし、目が合う。その瞬間、私は今までの人生の情景があふれだした。

 産声を上げ、立ち上がり、駆け、泣き、笑い、喧嘩をし、友人ができ、恋をし、目を腫らし、がむしゃらに進み、認められ、幸せを知り、家族を持ち、子の成長に驚き、別れに涙し、最後は穏やかに瞼を閉じる。

 私は人生の記憶と共に、私がここで目覚めた理由を思い出した。

 私の流した涙が赤子の頬に当たり、不思議そうな目で赤子が私を見つめ返すと、純粋な笑い声をあげる。私は涙を拭い、赤子に笑い返す。そして、赤子を私が座っていた椅子にそっと置く。

 赤子は眠くなったのか、瞼を閉じ、小さな寝息を立てる。

 赤子を起こさないように優しくその頭を撫で、白い人の手に引かれて『次』へ進む。

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