第3話 黒い知らせ
車に乗り込んでからまず口を開いたのは柿谷の方だった。
「会える日を楽しみにしておりました。お元気で何よりです。」
「うん。私もまさか君が、しかも空港で待ち構えてるとは思いもしなかったよ。」
「君も元気そうで良かった、
お互いに歳を重ねたが生きてるといい事もあるもんだ。」
そこで一瞬柿谷の表情が翳りを見せる。
「流石に君でも来日した理由までは知らないと思うから打ち明けるが、
向こうの事業も家庭も順調で、気持ちの整理が落ち着いたから
妹の詳細を探ろうと日本へ帰国したんだ。」
「なるほど、私もおおよその検討はついておりました。」
「実は私は政府筋の情報機関の顧問を生業としておりまして、
三島さんの妹さんの情報も既に持っております。」
三島が驚きの表情を見せた刹那、柿谷がその詳細について語り始めた。
「三島さんの妹さんは現在、ご存命で
彼女自身はごくごく平和に暮らしておりました。」
「がしかし、妹さんの三島久美子さんはあるトラブルに巻き込まれています。」
「久美子さんは20年前にご結婚され、その3年後に娘さんが生まれました。」
「娘さんはひろみさんと仰るのですが、ひろみさん自体は何不自由なく育ち
何事もなく暮らしていたのですが、
ひろみさんが高校一年になったある日、正確には半年前、
ひろみさんが暴漢に襲われ重傷を負いました。」
三島の表情が強張り血の気が引いてゆく。
「それでその久美子の娘はどうなったんだ!」
大きい声を張り上げてしまった三島を気遣いつつも再び柿谷は話を再開した。
「現在、ひろみさんは身体的には命に別状がないのですが未だ、
意識が戻っておりません。」
「暴行を受けた時に頭部にも外傷があり、それが原因かと思われますが
昏睡状態が一時的なものか長期的になろうかという判断は付かない状態にあります」
「そして、いまこの車は娘さんが入院している病院に向けて走らせております。」
「すまん、大声をあげたりして。」
「その、、、、、妹の娘はレイプされたのか?」
柿谷は申し訳なさげに話し出した。
「いえ、犯行自体はソレが目的だったようですが未遂に終わったようです。」
「幸運ともいえる偶然なのか事件の発覚が早く大事には至りませんでした、
その点のみについてですが。」
「しかし、その事件の後の状況が状況だけに妹さんは娘さんの事もあり
大変心を痛められております。」
その後、病院への道中1時間弱の間、
柿谷から妹の現在の状況と事件の詳細の全てを
こみ上げる憎悪を拳を硬く握りしめながら抑えつつ、
かろうじて黙って詳細を聴き終えた頃には、
既に日は墜ち街は暗雲に覆われようとしていた、
三島の心情と同調するかの如く。
老虎の終行 石川タプナード雨郎 @kingcrimson1976
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