第2話 羊

三島虎雄が羽田空港に着いたのは日も墜ちかけた夕刻だった。

胸ポケットに刺したレイバンのサングラスをかけ、

陽射しを遮った三島に声を掛けてきたのは自身より若干背の低い中年の紳士だった。

三島さん!

三島は声の方を見るなり男は深々と頭を下げ、そしてゆっくりと顔を上げた。

三島は思った。もしや柿谷、柿谷羊太郎?

その男の顔は忘れようもなく、心に刻まれた姿だった。

たとえ行く時の年月を経ようとも。

お久しぶりです!柿谷です!お元気そうで何よりです。

三島は訊いた。何故私が今ここにいると?

それは私の職業柄、色々な情報が手に入る立場にあるので造作も無い事です。

それより今後の予定はお決まりですか?

目的はハッキリしているが今はまだ明確な予定はない。

それでは積もる話もありますし私とご一緒しませんか?

彼に限っては間違いなど起こりようもないが、少し思案したあと、

そうだな。君に任せるとしようか。

柿谷の用意しているハイヤーに乗り込む前に予め把握してあったナンバーの自社、

日本支部のハイヤーの助手席側の外に立っている運転手に手で合図をし、

ゆっくりと柿谷の車の後部座席に乗り込んだ。

ロースロイスゴースト。乗り込むなり上質の牛革の匂いが鼻に飛び込んでくる。

三島の右隣に座り込んだ柿谷がえも言えぬ表情をしている。

しなやかに発進したロールスロイスはゆるやかに羽田を離れてゆく。

車窓から飛び込んでくる景色に目をやりながら

リクライニングシートに身をゆだねた三島だった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る