第38話:狡猾

 タクシーを降りたオレは、バンド仲間から聞き出した彼の自宅に歩を進めていた。

 意外にも、古びた下町で、路地裏を覗いても不潔な印象。こんな所にあの人が居住しているというのは少なからず驚きだった。ご丁寧に地図まで付けてくれた情報提供者は、


——気をつけて歩けよ。


 という理解不能だが警告じみたひとことを添えていたが、今はその意味が分かる気がした。


 彼の自宅に近付くにつれ、たむろする男達、すれ違う男達、客引きの女に見せかけた男達、更にはふと視線を上げた先、その木道アパートのガラス戸からオレを見下ろす男、つまりはオレの進路の前後左右、下手すると上下の男達全員が、まるで獲物を見つけて様子を伺う鷹のような、そんな眼をしているからだ。


……妙な目に遭う前に彩瀬さんの所に行かなければ。


 オレは珍しく焦りを抱きながら足を速めた。



 ◆


 

「良かったのかよ、指示通りにして」

「何が」

「谷津いおい様だろ? 今の」

「あーそうだけど?」

「いくらタケル兄貴からの事前連絡とはいえ、教えた住所ってだろ?」

「あーそうだけど?」

「しかもわざわざまで付けて」

「そういう指示なのはおまえだって知ってんだろ、

「まあ、そうだけどよぉ」

「おまえがいおいにそこまで入れ込んでるとは知らなかったぜ」

「別に。ただ知ってる人間が悲惨な目に遭うのを知ってて目を瞑るってのは夢見が悪いってだけだ」



 

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ロックに沼り音に溺れFXXKに堕ちる少年群 十鳥ゆげ @yuge_totori

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