第四話 血

後ろを振り向く

そこには俺らが殺した盗賊の死体が転がっている

盗賊の死体から最初はダラダラと垂れていた血もやがておさまり、盗賊の周辺には血の円ができていた

風が吹き、草や木の葉が揺れるなか、血も風と同じ流れにそって伸びていった


「もう少しですね」

「ああ....俺が先行するから後ろから援護を頼んだ」


大間かな流れがそんな感じだ

カズマはどうやらダガーぐらいは持っているがそんなので前に出られたら殺されかねない。だから俺が前に出て、カズマは主体の弓で援護、これが理想である


「なあカズマ、お前って確かギルドに用があるって言ってたのにどうして俺なんかの為に手伝ってくれたんだ?」

「いきなりどうしたんですか?」


盗賊の戦闘から妙に口数が減っている。このままでは息が続かないし単に気になっていたってこともある


「....ある人の情報を探していたんですよ」

「ある人?」


少し間があったところでカズマが答える

そのある人ってのは一体誰なのかが気になる


「僕の父さんが所属していたパーティーギルドのメンバーです。まだ現役だと聴いたのですが場所がわからなかったので後回しにして、今はラグネを手伝っているのが現状です」

「なるほどな、俺で良かったらそのパーティーを探すのに手伝うのに協力するが?」


無関係な俺にここまで協力をしてくれるんだ。何か礼をしないと俺的にはおさまらない


「いえ、あなたには旅の目的があって僕にも旅の目的はあります。手伝いは無用ですよ」

「そうか、なら旅の途中で今度遭ったら何か礼でもさせろよな?」

「わかりました」


そんな感じで話していたらいつの間にかカズマの表情は和らいでいていつものカズマへた戻っていた


道を歩き、タラント鉱山までもうすぐだってところで俺達の足は止まる

なぜか?それは盗賊共が見張りに二人いるからだ。鉱山の入り口の左右に一人づつ見張りをしている


俺達は盗賊が見えたところで近くにあった茂みに隠れて盗賊共を見ていた


「どうする?相手は二人だが、最低でも一人は不意打ちが出来てももう一人はどうする?」


奥ってにいる盗賊と最も近い盗賊、どちらを先に倒すか?

カズマの弓で奥っての盗賊を倒した場合、俺は手前の盗賊を倒すことになるが、手前の盗賊に気付かれずに近づく必要がある。僅か数秒も遅れたら仲間を呼ばれるからだ。敵の人数がわからないし、『黒い矢』ってのも不安の要素となっている。だから気付かれずに倒す必要がある


「僕が弓で奥の盗賊を倒します。ラグネはこれを使って手前のを倒して下さい」

「これは?」


カズマがベルトポケットからある部品を取り出し組み立て始めた

それはあなクロスボウである


「クロスボウ...か?」

「はい、使ったことはありますか?」

「多少は」


父さんが弓やクロスボウ、剣、槍とあらゆる武器を使えていた為武器の使い方は一通り理解しているつもりだ


カズマは俺に組み立てたクロスボウを預け、弓を構える

クロスボウには既に矢が装填しておりいつでも射てる状態だ


「合図に合わせて」


カズマの言葉を聴いて俺はクロスボウを構える

目を片目だけ瞑って、照準を相手の頭に向け....


「今っ!」

「っ!!」


俺は躊躇なくクロスボウを射った

矢は盗賊の頭へと一直線に飛んでいき、矢が刺さった

もう一人の盗賊は何事かと仲間のほうへと振り向いたがその仲間は既に息絶え、瞬間、自分の頭もその仲間と同じようになる


初めて人を殺した

俺はなんの躊躇もなく矢を射ったんだ。だけど俺には罪悪感はほとんどなかった。しかし躊躇なく射った自分への嫌悪感はある

生きるか死ぬかの世界だ。いずれ慣れてしまうだろう


「盗賊に気付かれる前に移動するよ」

「わかった」


クロスボウをカズマに返し、俺は一足先に鉱山の中の様子を確認し、何もないことがわかって俺は自分で殺した盗賊とカズマが射った盗賊の死体の場所を移す


盗賊の体はさっきまで生きていた為、まだ暖かった

死体は茂みに移動させ、後から来た人でもわからない所へと移してある


俺が死体を移し終えたところでカズマがクロスボウを分解し終えて合流する


「何をしている?」

「再利用だよ」


そう言ってカズマは死体から矢を2本とも回収した

死体からは血が垂れ流れて額は真っ赤に染まっている。そしてその死体から、鼻が曲がりそうな鮮血の臭いを出していた


カズマは矢から血を拭き取り、矢筒に入れ直して弓を肩に掛ける


「よし、準備はできたよ。いつでも行けるさ」

「わかった。俺がまた先行する。今度は鉱山内に入るから無闇に剣を振ることができない。援護を期待している」

「任せてって!」


そんな会話を交わらせて俺達は鉱山へと入っていく


鉱山の内部には木の柱で土や石が落ちてこないように支えていた。しかしその柱も既に劣化しているのか一部では崩れ落ちていて道の何個かが塞がれている状態だ

その一つの道に崩れ落ちている物の下敷きになっている白骨死体があり驚く


「こいつ、ここで働いていた労働者かな」

「観た感じ、ここができたのって結構前だと思うし、盗賊が出入りする前に死んだ人だと思うよ」


俺はその死体に手を合わした

特に理由はなかった。ただ、そうしたほうが良いと思ったからだ

カズマも白骨死体の前まで来て手を合わした


「ん?これは....」

「どうしたの?」


土と石の瓦礫の近くにある一つの本が落ちてた

俺はその本を取りページを開ける


「日記....かな?」


横から見ていたカズマがそう呟く

俺から見ても日記だと思う。一ページごとに日付が書かれており、そこには一日の出来事を精密に記していた


一通り捲った後、日記表紙を見る

そこには著作名と書き始めた日付があった。名前はエリック・トッドと言い、書かれた日は竜王暦463年6月3日と書かれていた

今が竜王暦492年だから、この日記は29年前に書かれた日記だとわかる


「これはギルドに届けておこう」

「そうしよう」


日記を旅用のローブのポケットに入れる

俺もこの旅の記録を日記に綴(つづ)ろうとしていた。俺も道半ばで死ぬかもしれないな


「誰かいるのか?」

「「っ!?」」


日記に気を取られて俺達は警戒を怠ってしまった。故に盗賊が気づいた

徐々に足音の大きさが大きくなっていく

俺達は柱の影に隠れてやり過ごそうと思ったが、盗賊は俺達の方まで着実に近づいている


「....」


盗賊の足音が止まり、一瞬帰ったかと思ったが鞘から剣を抜く音がした。完全に誰かがいることに気付いているのだ

そしてまた歩き始める。さっきまで何の警戒もなく詰めてきたのに今度はゆっくりと歩き、警戒をしているようだ


男の影が見え始めた。もうすぐそこと言う距離へとなっている


「ラグネ、行けるか?」

「ああ、俺が殺る」


カズマが小声で言い、俺はそれに了承する

鞘に手をかけ、いつでも抜剣ができるように構える

しばらく待ち、盗賊の足音が真横から音がして俺の視界には盗賊の体が目に入る

俺は一気に盗賊の間合いを詰め、首を斬った


その剣で初めて人を斬った

全力で首を切り落とそうと力を振り絞ったが思った以上に硬く、斬りずらかった

盗賊は声も出せずに息絶える

音を立てないように死体を支え、横にさせた

剣には血が付いていて、剣先からは血がシトシトと滴がおちていた

俺は剣を振りかぶって血を振り払い、鞘へと納める


よく見ると自分にも多くの血が付いていた

首を斬ったのだ。出血量は他と比べると多すぎるぐらいの血が出てくる

帰ったら洗うか


「ここまで盗賊は4人....後何人いるんだか」

「最低でもあと3人ぐらいだと思わないといけないかな」


この鉱山の構造がハッキリとわかっていないんだ。どこに盗賊がいるなんて考えることはできない


俺達は壁にそって歩き始める。今度は足音を発てずにゆっくりとだ

だが地面は土だ。いくらゆっくりと言っても多少の音さ出てしまう。バレないことを祈るばかりだ


「なんか、灯りが見えないか?」

「ほんとだ」


しばらく歩いていると、先の道から灯りがもれている

俺とカズマは互いに顔を見合わせて頷く

何をするべきかわかっていると言った風にだ


俺がしゃがみながら前を歩き、同じようにカズマも後ろを弓を構えながらしゃがみ歩きをして付いてくる

俺は抜剣をできらように剣の柄を強く握り締めている


「頭!本当にあんな奴らの条件を飲む気ですか!?俺達には俺達なりのルールがあるってもんでしょ!?」

「カルマ、お前の言い分まわかるさ。でもよ、あいつらには敵わないんだ。あいつらに背けば俺達が消されるだけだ」

「でも、頭....」


灯りがもれている所からは話し声がする

耳を澄まして聴いてみる必要もなく、どうやら揉めているようだ。話の内容は誰かに従属でもされようとしているのだろうか


それよりも俺は灯りがもれている所をゆっくりと覗き込んだ

どうやら三人いるようだ。二人は不通の盗賊で一人はさっきの話で言われていた盗賊の頭だ


「敵は三人いる。俺が突撃したら一番俺から遠い奴を射ってくれ」

「わかった。気を付けてね」


俺は一呼吸をおく

人を斬るのに躊躇をしないためにだ。最も躊躇はしなかったが念のためにだ。躊躇なんてしていたら命が失くなってしまう


俺は足に力を込めていつでも突撃ができる状態にする。後は自分のタイミングでの突撃のみだ


「おい、誰かー!!侵入者がいるぞー!!」

「なっ!?」


俺やカズマの後ろから誰かの声がした

この状況で声の主は盗賊の仲間しか他があるまい。それにしても最悪な展開だ。このままでは俺達が見つかって不利なだけだ


「カズマ、後ろは頼んだぞ」

「ラグネは?」

「先手あるのみ」


俺はカズマの返事を聴かずに突撃した

いきなり姿を表した俺に対して驚いている盗賊共をまず、一番近い奴から剣を抜剣し、心臓に向かって一直線に突き刺した


「ぐっ!あ、ああ!」

「らああぁぁ!」


心臓を突き刺した盗賊は悲鳴をあげながらも抵抗しようと腰にあるナイフを取り出そうとするも、その前に絶命する

突き刺した剣を抜き、血しぶきが俺に向かって降ってくる。盗賊は目を開けながら横に倒れていた


「カルマ....お前だけでも逃げろ」

「頭!?それだけは俺が認めませんよ!」

「そうか、ならっ!」

「か、頭!?」


盗賊のリーダーと思わしき者はカルマと呼ばれる男のメンバーの胸ぐらを掴んで真後ろの道へ投げ飛ばす

その道は細く、人一人が通れるぐらいの道となっている

盗賊のリーダーは道の入り口にあるロープを切り落とした。そのロープを切り落としたとき、道の入り口に石や土の瓦礫が崩れ落ちる

どうやら脱出用に用意されていたのだ


「仲間思いだな。それを使ってお前も逃げたらよかったじゃないか」

「それはできんよ。仲間が殺られたんだ、易々と逃げてたまるか」


でも、仲間思いでも犯しているは罪だ。裁かれて当然な対象だ


俺は剣を構え、盗賊のリーダーも剣を構えた

盗賊の剣はそこらにあるような剣ではなかった。少なからず市販ではないような物としかわからない


「お前の剣、一体それは?」

「こらか?呪具だよ」

「呪具....」


呪具

それはこの世界において不思議なアイテムの一つだ。生きていた人が死んだときに魂が物や人に乗り移る例がある。物に乗り移ったら魂の性格や生涯を反映した効能を持つ呪具ができる

呪い

人に乗り移った場合は呪いとされ、乗り移された人は徐々に自我が失くなっていき息絶えたところで魂に乗っ取られてしまう


この世界において誰もが理屈や理解がわからない出来事だったりもする


「こいつの人生は最近巷で流行っている辻斬りに殺された人の魂なんだよ。だからか知らねえが復讐に燃えている。この剣で相手を斬ったら全身に痛みを発してやがて心臓が破裂するって言う呪具さ」


剣を俺に見せながら言う盗賊のリーダー

まるで緊張が無いかのように振る舞っている


「どうして説明なんてする?」

「さあな?」


それ以降は俺と盗賊のリーダーは口を閉ざす

俺達はお互い剣を構えていつでも勝負ができる状態にはいる


「らあぁ!」

「はあぁっ!」


同じスピード、同じ体勢、同じ剣裁き

俺の剣先と盗賊の剣先が互いに交わり戦いのコングが鳴らされた

血が付いている剣と銀色に輝く剣との対決だ

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