第三話 普通
「都合良すぎるにも程があるだろ」
ギルドを探すには時間が掛かると思って最初の項目から真っ先に却下したのがまさか隣の建物だとは思うまい
いや、ちゃんと見なかった俺が悪いのだけどな
俺はギルドの扉を開けて中に入る
そこには流石ギルドと言える大柄でイカツイ風貌の男、落ち着いた様子で椅子に座っている、冷静沈着のように見える男、あとオカマだ
ん?なんでオカマがいんの?え?
オカマが見えた瞬間、俺は失礼ながら二度観を通り越して三度観した
世の中は広いなと思った
俺はいつの間にか開いていた口を閉じて受付のところへと向かう
「すいません、依頼を受けたいのですが?」
「はい?あ!かしこまりました。どのような依頼がよろしいでしょうか?」
何やら整理をしていたようだがお構い無しに聴く
受付の人は若い女の人でギルドの腕章を着けている
女の人が受付をしているが男が受付をやっているところなんて滅多に見たことはない。それはやっぱり需要の問題なんだろうな!何がとは言わん
「今日中に終われそうな依頼ってありますかね?」
「少しお待ちください」
受付人は受付所の後ろにある紙を何枚かペラペラと捲って再び俺のところへと戻ってくる
戻ってきた受付人の手には一枚の紙を持っていた。その紙を俺のほうへと向けて渡す
「こちらの盗賊討伐の依頼がありまして、その盗賊に依頼主が大事にしている指輪を盗まれたらしく。報酬として1200Gが支払われるようになっています」
「わかりました。ではそれを受けます。指輪の特徴とかは?」
「す、すいません。言い忘れていました。指輪の特徴は水色の指輪に白い宝石があるそうです」
受付人は慌てた様子で俺に一回平謝りして指輪の特徴を言った
謝ることは大事
受付人に依頼内容を聴いて結構言い感じがした。今日中にできて、1200G稼げるしで今の俺にとって救いの依頼だ。ちょっと不安要素は盗賊の強さと人数だ。数が多かったら多勢に無勢だし、相手が強かったら飛んで火に入る夏の虫だろう
となるとこっちも二人か一人は一緒に行きたいよな
さっきのオカマに頼んでみるか?意外とムキムキだし
「あれ?ラグネット君?」
「ん?その声はカズマか!?」
声がした方を振り替えったらカズマがそこにいた
感動の別れから早くも再開してしまった
遭うのは旅の途中だろうと思ったし、今度遭ったら何か奢ろうとしたのに今は無一文みたいなものとなってしまった
「さっきぶり、どうしてここにカズマが?」
「言ったじゃないか、ギルドに寄っていくって。だからいるの」
そう言えば忘れていた。別れ際にそう言って別れた事を....
あ!カズマに協力してもらおう、そうしよう
「ラグネット君もどうしてっ」
「ラグネで良いよ」
俺が食いぎみで言ったせいで意表を突かれた表情で固まった
一方その頃、その表情を見て俺は意外とカズマって美形だなと思っていた
「わかった。じゃあラグネこそどうして?」
「金が無くて依頼を、受けようとしたんだ。ちょっとハプニングぐあっていろいろ使っちまった」
「金使いが荒いの?」
「違うって!?」
「ごめんごめん、もし良かったら手伝うよ?」
カズマがフフッと笑った顔を見てちょっとドキッとした。ほんと美形と言うかものの見方によっては女子にも見えかねない
ほんと魔性の笑みだね
そのカズマからの一緒に行こうと言うので俺から誘う必要はなかった。向こうから誘ってくれると楽だよね
「ほんとか?それだと助かる。この依頼なんだけどな....」
「なるほど」
俺は受付人から貰っていた依頼書をカズマに見せる
カズマを俺の隣から覗き込むように見てきた
男ってわかってるのにいい匂いするのなんで?
「盗賊の強さや人数がわからないから困ってんだ。そう言えばカズマって失礼だけど戦えるの?」
俺からしたら戦えなさそうだ。自慢ではないが俺はそれなりに筋肉はある。時々だか剣の素振りをしたり筋トレをするものだから多少は筋肉があるし剣術も使える
だからこそカズマが戦えるとはちょっと想像が付かない
「戦えるよ。と言っても弓での応戦だけだけどね。剣は扱えるけど思いから使ってない」
「なら俺は剣を使って前線で戦うから援護して欲しい」
「任せて!」
と、あっさりと役割を決めて、ヤル気満々なカズマの顔に幼さが混じってた
この子何歳だよ
「ではお受けになるのですね?」
と、後ろから受付人が声をだして問う
ずっと蚊帳の外で気まずそうだったから無理もない
すいません
「はい、お願いします」
「わかりました。では行ってらっしゃいませ」
そう受付人に言われて俺とカズマはギルドを後にした
◆◆◆◆◆◆
町外れの郊外に俺達は向かっていた。何しろそこに盗賊のアジトがあると聴いたからだ
ギルドを出て少し歩いたところでふと場所を聴いていなかった。持っている依頼書を確認したけども場所の記載はなく、もう一度ギルドに戻ろうともしたが面倒だった為止めた
その代わりに道行く人々に盗賊の情報を聴いたところ、ここ町外れの郊外にアジトがあると言う
郊外と言っても、家の一個一個の間の距離が数100mあり、どれもが農業施設を完備している
果たしてここに盗賊のアジトがあるとは思えない。それらしき怪しい施設が在るわけでもなく、怪しい人がいるわけでもない
「本当にここら辺りに盗賊はいるのか?」
「観た感じいないよね。ここらの人に聴いてみたほうが良いよね?」
「そうしよう」
手がかりなしで探すのは時間の無駄だし効率良くいこう
俺達は意外と舗装されている石畳の上を歩いて近場の家を訪ねる
カズマが俺の前に立ち、誰かの家のドアをノックする
一回目のノックで反応がなく、二回目のノックで家の中から『はーい』と声がした。ドタドタと走る音がして家のドアが開く
中からは作業服を着た女の人が出てきた
「どちら様でしょうか?」
「すいません。僕達はある依頼を受けてここまで来たのですが、ここら辺で何か変わった事はないでしょうか?」
出てきた女の人の質問に答えるカズマ
蚊帳の外となる俺
俺は最初女の人が出てきたときにカズマと一緒にお辞儀している。うん、空気じゃないはず
「そうねぇ。あ!確かに最近盗賊が出たって話があったのよ。確かタラント鉱山って場所にっえ話よ」
「タラント鉱山ですか。その鉱山の場所はどこでしょうか?」
「あそこよ。この村の外れだから道は舗装されてないの。あそこを辿っていけば着くわ」
女の人が指輪を指すところにはなんの変哲もない道があり、その道の向こう側には小さな丘が見える。おそらくあそこがタラント鉱山だろう
「ご協力感謝します」
カズマがお辞儀をするのに合わせて俺も一礼する
「気を付けなさいよ、その盗賊は『ハイエナ』って噂があるから」
「『ハイエナ』?」
「知らないの?最近できたって言う盗賊集団よ。何でも『黒い矢』ってのと接触してるらしいし」
女の人の言葉に知らない単語と知ってる単語が出てきた
まず、『黒い矢』と言うのは有名な暗殺者の集まりだ。そな名はフリム大陸以外の大陸にも名が轟いている
だが、『ハイエナ』については知らない。さっきの話じゃ盗賊集団って話だ
やっぱり盗賊も一人や二人じゃなかったようだ
「わかりました。気を付けます」
「村の人達も被害にあってるから頼んだよ」
「はい」
カズマがそう返事をして俺達はタラント鉱山へと向かった
道中、カズマの顔が少し尖っていた
あの『黒い矢』と言う単語を聴いてから表情が優れていない
いつもは童顔な彼だが、今はその顔も台無しになるほどにだ
「どうした?気分でも悪いか?」
「え?いや、別に悪いって訳じゃないよ。ただ、『黒い矢』ってなが関わっているとなるとね....」
カズマは意表を突かれて一瞬我に返り、いつものカズマへと戻った
ただ、カズマが言う関わっていると言う言葉に少し引っかかる。その言葉には恐怖ってよりも憎しみや憎悪にも捉えれるような表情であった
個人の出来事だ。俺が深いるする必要は無駄なお節介だし、それで嫌われるのも嫌だ。そっとしておくのが良いだろう
「でも、あの人は「らしい」って言っていたから実際に入るとは限らんし、警戒を怠らず、注意をしよう」
「そうだね」
そう言って自分では和らげたつもりだが実際のところはわからない。余計な事を考えてなかったら良いのだが
本来の目的は指輪の回収だ。そこに盗賊が入るだけの話
俺達は会話を交わしながらいつの間にか舗装されていない道を歩いていて、タラント鉱山が見えてきたときだ
「止まりな!」
俺達を呼び止める声がした
気付いたらカズマの隣には見知らぬ男がいたのだ。男は荒れた風貌をしており、斧が腰にかけられていた
どっからどう見ても盗賊だろう
そう、カズマの隣には盗賊がいきなり現れた状況となっており、盗賊は今にでも戦いそうな雰囲気だ
「ここからは関係者しか行けねぇよ。わかったらさっさと立ち去りな」
「そうですか....しかし困った。僕達も仕事で用があるのでこの先に行かなくてっ」
「危ない!!」
カズマが盗賊に事情を話しているが向こうは聞く耳は持たないだろう。それに向こうも俺達の目的がタラント鉱山だってことがわかったはずだ
だから盗賊はカズマに向かって斧を振りかざした
俺はそれに反応して盗賊に向かって体当たりをする
「ぐっ!?」
「カズマ!他に盗賊は!?」
盗賊は吹っ飛び、俺も盗賊の近くで倒れる
カズマは俺の言葉を聴き肩に掛けていた弓を手に取り、矢筒から矢を一本取り出し、辺りを警戒し始める
「誰もいない!」
「こいつだけか」
盗賊は立ち上がろうとするも俺が先に立ち上がり盗賊を押さえ込む
盗賊はジタバタと悪足掻きをしてくるが手と足を押さえて暴れることができないようにした
「こ、降参だ!だから命だけは!」
「そう言ってお前らも人の命を奪って来たんじゃないのか?」
「カズマ?」
盗賊の言葉に反応したのはカズマだった
カズマは弓を絞っておりいつでも矢を打てる状態にある
「ラグネ....避けて」
「....」
俺はこの世界の死の概念について考えていた
この世界では強盗や殺人も当たり前だ。俺がここに来たときも辻斬りが起きていた。そう考えるとこの世界では死ぬ事が当たり前のことで普通なんだと
今まではあまりに人の死に直結するような出来事に出くわしていなかったから身に沁みる
「わかった」
「.....今っ!」
カズマの声に合わせて俺は盗賊から離れた
離れた瞬間にカズマは矢を射る。その矢は盗賊の背中へと当たり、あの位置は心臓の場所だとわかった。何せ男は射たれた瞬間から声が出なくて射れた後からも心臓が射ち抜かれたことで体に酸素が行き届かず体が青ざめていく
射たれた場所や盗賊の口からは鮮血がただれおちていた
男は絶命した
「先に行きましょう」
「ああ、わかった」
カズマが先導しようとしたが俺はカズマの前に立ち先導する
なんだか今のカズマは危なっかしい
だが、俺は始めて人の死に直結する出来事に対面し、殺ったのはカズマだとしても俺が取り押さえていたから俺も殺したことになる
この先、俺は今まで以上に人の死に関わっていくだろう
それが普通のように
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